私は暗記は得意ではない
私の部屋に戻ってくると、年配の執事らしき人が、お茶とケーキを運んでくる。
ハーブが混ぜられたらしいお茶と、色とりどりの果実が黄色いふわふわのスポンジと真っ白なクリームの上に乗せられている。
試しにフォークで一口食べると、口の中でとろけるように柔らかく甘さも程良くて……って、そうではなくて。
「私専用の執事とメイドっていないの?」
「ベルのメイドは、今度の学園で見つけてきてくれ。あそこの平民は、貴族のメイドや執事になりたい奴がいるからそこから、そこから好きなのを選んで契約してくれ」
「……随分適当なのね。仲間は厳選したりしないの?」
「ベルの基本能力が高いから、戦闘は一人で十分だし、変な事に巻き込まれなければ大丈夫だろうな」
レオンがそう言いながらケーキに手を付ける。
ただ私は条件づけの方が気になる。
「変なことって何よ、何かあるの?」
「大抵何かをやると予定外の事態に見舞われるのは、あのヒロインで経験済みだからな」
レオンが空を見上げながらぼんやりとした瞳で呟いた。
そういえばあのヒロインとこのレオンは知り合いのようだったが、
「何でああなったの? というかヒロインてあんな風じゃなかった気がするけれど?」
「……答えたくない」
その一言で黙りだ。
もう少し私に情報を寄越せ、と私が思っていると、
「それじゃあ、こちらから幾つか適当に説明していくぞ」
「適当って……」
「思い出したらその都度する形だ。まずは、ステータス画面だが……」
そこでレオンが先程と同じような呪文を唱えて、ステータス画面を映し出す。
それを指さしながら、
「書かれている項目は、大体この通り。体力はこれがゼロになるとぶっ倒れて動けなくなる状態、魔力耐性は、魔法的な攻撃に対する防御力って所。速度は相手よりも早く攻撃ができる、つまり、相手よりも早くに魔法が発動しやすいだけで……あまり重要ではないな。後は走る速度の速さもここに出てくる。回避は敵の攻撃を避けやすい、つまり反射神経が良くなっている割合、そして運は、魔法関係の命中率なども含めた、成功率に影響する、以上だ」
ダーッと言葉だけで一通り説明されても、何だかよく分からない。
そもそも色々端折られている気がする。
だいたい防御力だって、
「この見難い表示の体力があれば、攻撃されても倒されないんじゃない? むしろ防御力も異様に高いし、このまま相手を殴りつければ大抵倒せるんじゃない? 魔法なんてなくとも」
防御の力も強く体力があれば、そう簡単に倒せないのでこのまま延々と相手を殴るなりすれば、いつかは確実に空いてを倒せると思ったのだ。
それにレオンはため息を付いて、
「それでどうにかなれば楽なんだけれどな。例えばあのヒロイン、マリアがいるだろう?」
「うん、さっき戦った。そして魔法はもう使いたくないと思ったわ」
「……その話はおいておいて、ヒロインの固有の能力は、パラメータ操作だ。これは魔法発動時に敵となる対象のパラメータをいじれるんだ」
「……つまり私の体力が、1になったり防御が1という紙装甲になるってこと?」
「確率的には低いからもう少し多い値になるだろうが、倒せるようなパラメータに変更させられるかもしれない。そしてそんなあいつだから危険な魔物相手でも、挙句の果てには“魔王”までも倒したんだ」
実はヒロインは私にとっては天敵に近いキャラであるらしい。
できるかぎり戦闘しない方向で行こうと私が決めているとそこで、レオンが軽く私のステータス画面に触れる。
その場所は体力の項目だ。
その体力の部分だけがその枠内に今度は表示されて、
体力:100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000/100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
といった表示がされた。
見難い、とても見難い。
画面一杯に広がるゼロの数字にクラクラしてくる。
そこでレオンが再び画面に触れるともとのステータス画面に戻る。
「といった風になるので機能の関係上、こう表示せざる負えない。理解してもらえたか?」
「うう、わかったわ。それで私がここにいる期限って何時までなの?」
「うーん、一、二年かな。あ、ベルの世界の時間とこの世界の時間の流れは違うからそれに関しては心配がない」
「そうなんだ。でも、一、二年って結構時間が有る?」
「これから学園に通ってもらって、他の人と交流しながら情報を集めたりもするから、意外に時間は無いと思う。それに手を打てるなら余裕が有るほうがいいだろうし」
「あれ? 私、学校に通うの?」
「うん、この春から中学1年生だ。そして春休みの間に、魔法に関する知識を大量にベルには暗記してもらうからな」
さらっと言ったレオンの言葉に私は固まる。
はっきり言って私は暗記は得意ではないのだけれど……と思っている私の目の前で、レオンが分厚い本を5冊ほど積み上げて、
「では、早速だけれどこの5冊の内容を暗記してもらおうか」
絶望的な内容を、レオンが私に楽しそうに微笑みながら告げたのだった。
次回より、学園編に入る予定。




