気になることを告げて弄ぶ
そんなこんなで、ランディが切り分けてくれたケーキと紅茶が私達の前に並ぶ。
私の右隣にはレオン、左隣にランディ、その隣にウィル……といったように座る。
そして、そんな私の反対側に、マリアとシンシアが座っている。
そこでとりあえず私が一番初めに紅茶に口をつける。と、
「! 美味しい、果物の香りがする!」
「クロックキャンディの茶葉に、アールレンジの果実とその果実を使って作った香りだかい蒸留酒、砂糖を入れた物です」
「わー、ランディ、紅茶を入れるのが上手いんだね」
「……ウィルが飲みたがるから」
そう言って、無表情ながらも何処となく照れているランディ。
それを言われたウィルは、えっと小さく声を上げてから、顔を赤くしている。
どうやら知らなかったようだ。
次に私は白くシュガーコーティングされたケーキに手を伸ばす。
とても甘そうに思えたので、小さく一口フォークで切り分けて口の中へ。
口の中で溶けたそのケーキからは、干した果実の香りと甘み、すがすがしいハーブの香りなどが口いっぱいに広がる。
凄く美味しい。
こんなに美味しいとは思わなかった、幸せ……。
私がホワンとしていると目の前のマリア達も口にし始める。
どうやら私の様子を見て食べるか決めたようだ。
私は毒味役か、と思わなくはなかったけれど、口にした彼女達も全員ホワンとしていたのでよしとする。
そこで私は気付いた。
「ミカエルは、そこまでホワンとなってない? レオンも」
こんなに美味しい、絶品のケーキなのにそこまでの感動を覚えていないようだ。
変だなと思って私が見ていると、ミカエルが仮面をかぶったような笑みで、
「どうしたのかな? 僕の顔になにかついているかな?」
「こんなに美味しいケーキなのに感動していないなって」
「……では、味覚を少し上げようか。美味しいようだし」
そう言い出したのを聞きながら、何でそんなことをと思っているとマリアがミカエルに、
「何で味覚をきろうとしているのよ」
「……この前マリアが焼いたケーキは、大外れだったからね」
「……分かった、悪かったわよ」
どうやらマリアが、名状しがたいケーキを作り上げてしまったことが原因らしい。
となると、レオンもそれをやっているのだろう。なので、
「レオンもそういった味覚操作はやめたほうがいいと思われるわ」
「そうだな……あの時は俺も端の方を味見しただけで……。でもミカエルは一切れまるまる食べて死にかけていたからな。元々の味覚にも問題が有るんじゃないかと俺はあの時思った」
遠くを見るような瞳でレオンが呟いた。
そんなレオンにミカエルが……初めて素直に感情を表すように苦笑して、
「マリアの作ったものだからね。見ていて面白いから、これは全部食べないとと思ったんだ」
「それでしばらく意識不明になっていたらそれはそれで問題だろう」
レオンが嘆息するレオンを聞きながら、一体何を作ったのですかと思ってマリアを見るとふいっと顔を背ける。
そんな会話をしているとそこでミカエルとレオンがケーキを口にして、
「へぇ、これは確かに」
「おいしいね」
口々に二人が呟く。
そっと作ったウィルの様子を見ると安堵しているようだった。
でもこのケーキほんとうに美味しいなと思いながら私は、
「ウィル、後で作り方を教えてもらってもいいかしら」
「! もちろんです」
「あ、私も―」
「あ、はい。ではあとで紙にメモを……
そこで、さり気なく紛れ込んできたシンシアが私達に言う。
何だか初対面なのに馴染んでいるなと思いながら私は、それでも先程のマリアとの激闘を思い出して、只者じゃないと悟る。
なのでこっそりステータスを開示した。
他の人達にも見えたりするが、構わないだろう。と、
シンシア・カールヘルツ
☆ステータス☆
種族:人間
レベル:77
体力 120
攻撃力 200
防御力 135
魔力 190
魔法耐性 300
知力 250
素早さ 500
回避 100000
運 120
装備:学園の制服(赤)
魔法属性:杖の魔法(魔法)(%):炎 40 水 30 土 25 風 300 光 150 闇 100
特殊能力:事象及び概念の消去(弱)(レベルにより変化)
……回避率が異常値を示している。
しかも事象及び概念の消去(弱)って一体なにこれ。
またすごそうな特殊能力が、と私が思っていると、
「……そんなわけで攻撃が全く当たらないから、このシンシアを私は一度も倒せたことがないのよね」
「マリア、どうして戦うことに?」
「……このシンシアは突然現れて、私達が気になることを告げて弄ぶのよ。ま、今回のターゲットは私ではないようだけれどね?」
マリアが自嘲気味に笑って私を見る。
つまり、今回のそのシンシアのターゲットはマリアではなく、私?
そう私が首を傾げているとシンシアが、
「ご馳走様。どちらもとても美味しかったです」
「それは良かったわ。ウィルもランディも、今日は有難う」
私がお礼を言うと、二人は顔を見合わせてから照れたように微笑む。
ランディの唇もちょっとだけ動いている。と、そこで、
「それで私が今日来たのは、貴方、ベルネットさんという“悪役令嬢”のあだ名のついた貴方がどんな人なのかなと思って見に来たの」
「? はあ、そうなんですか」
「そう、他の人達と貴方は違うし、そちらの王子様も普通の人達と違う。そんな仏じゃない貴方は普通では無い人達に囲まれている。そして“悪役令嬢”なんてあだ名が付いて、まるで中等部になって突然現れたかのように存在感を表している」
「……何を仰りたいのでしょうか」
遠回しな言い方はあまり好きじゃない。
私の存在が異質だと言いたいようで、そしてそれが事実な私は少し神経質になってしまう。
そんな私に彼女はニコッと微笑んで、
「実はこんな石を拾ったので、欲しかったりするかなって」
そう言って彼女は、以前私が手に入れてひどい目にあった、あの青い石を二本の指の間に挟んで見せつけてきたのだった。




