案内役の段ボール
周りを見回して、お姫様が住んでいそうな部屋だと思っていると、鏡があるのに気付く。
近づいていって覗き込むと、そこには長い銀髪に紫の瞳をした美少女がドレスを着て立っていた。
まるで陶器の人形のような白い肌。
これはもう人形にしか見えない美少女だな、むしろこの鏡は絵画ではないのだろうか。
そんなだまし絵のような何かではと私は思ったので、とりあえずダブルピースをしてイエーイとやってみた。
目の前の人形の様な少女が、即座に俗っぽい何かに変化する。
どうやらこれは本当に私の姿らしい。
これは楽しいわと思った私は、こんな風に浮かれている場合では無かったと思う。
つまり、私には役目がある。
「なんだっけ、悪役令嬢ベルナデットだっけ。そしてこの世界の名前が“スフィアクロス”。確か以前ゲームでそんなような名前の世界が舞台のRPGがあった気がするけれど……確か、またの名を“暗黒乙女ゲーシューティング”とか何とかと親しまれた……」
確かクソゲ―の一種だけれど、そのグラフィックも含めてキャラクターには根強いファンがついたゲームだ。
ちなみに乙女ゲームではない。
だが主人公が女で周りに男が集まってきていたので、そう呼ばれてしまったある意味不幸なゲームである。
内容は普通にファンタジーな感じだったはずだけれど、そこで私は更に思い出した。
「そう、“二つの半球の扉”とか何とかで、そうだ! 思い出した、悪役令嬢ベルナデット! そんな悪役令嬢がいますよって一行主人公達の会話で出てきたキャラだ! ……何で覚えているんだ私」
そんなどうでもよさそうな設定を何故か覚えていた私。
だが一行出てきただけではどんなキャラなのかも分からない。
とはいえ、あの謎の声を信用するならば、わざわざ悪役令嬢や悪役をさせられるわけではないらしい。
「でもすでに悪役ってついているけれど、これ、どうするんだろう」
私はそう呟きながら、鏡の前から移動する。
とりあえずは説明役を探さねば、そう私が思っている所で、視界の端で何かが動いた。
訝しげに思って私はそちらに向かう。
そこには『みかん』と書かれた箱が置かれている。
何故かこんなファンタジックで西洋風の世界観で、『みかん』のダンボール。
どうして『みかん』なのか、他の選択肢はなかったのか。
とりあえずそのダンボールに近づくとそれは私から逃げようとするので……踏みつけて動かないようにした。と、
「踏むな、出るから! ああ……見つかってしまった」
違和感しかなかった段ボール箱の中から声がする。
どうやら男性のようだ。
そしてそこから段ボールの上の方が開いて、金髪碧眼の美少年がでてくる。
歳は私と同じくらいで、何処かで見た事があるけれど何だっけと私は思い出せない。
ただ、こんな所にイケメンが……という事はつまり、
「逆ハーレム要員?」
「違う! サポート役だ!」
「そうなんだ、何で隠れていたの?」
「サポート役が大変そうだからだ! ただでさえややこしい事態になってもう全部投げて逃走しようと思ったのに、こんなすぐに来るなんて!」
「私はわざわざ手伝わされているのに、何よそれ」
「こっちにもこっちの事情があるんだよ、ああああ、どうしよう」
「それよりも少しは説明しなさいよ、この世界で私はどうするのかとか、魔法の使い方とか」
恐らくは魔法が使えないと不便だよなと思ったから言っただけなのだが、そこで目の前の金髪碧眼の美少年は、
「説明、説明の時間は無い……実践で覚えてくれ、もうすぐそこまで“あいつ”がきている」
「あいつ?」
誰だ、と私が思っている所で、私の部屋の窓ガラスが壊れてると同時に、人影が私の部屋に飛びこんできたのだった。




