私は動けずにいた
そこは開けた場所になっていた。
天井も高く広場のような様相。
周りは土の壁が、私が14人くらい縦に並んだような高さだ。
その場所に倒れこむ、私達より先に来ていた上級生が倒れている。
確か入る時には四人だった。
そして今は四人が転がっている。
周りに流れている赤い液体は……。
ぞっとしたように私が立ち尽くしていると、私の横をウィルがかけていく。
倒れた人達に気を取られていてその奥に“何か”がいるなんて気づかなかった。
それは暗闇と同じ色をして溶けこむように“いた”。
暗闇そのもののそれに向かって、ウィルが杖を構えて、
「“杖よ、奏でよ”、“炎の拳”」
現れた炎のハエ叩きのようなものでそれを叩くけれど、それには特に影響はないようだ。
しかもずももっと重い音がして黒い腕のようなものを伸ばす。
それらをその杖で何とかウィルは防御している。
けれど余裕はあまりないらしい。
その攻撃のダメージにはその黒い何かには通じていないようだからだ。
そこでランディが呟いた。
「我思うが故に我あり 祖を起点として扉を開け “氷円の扉”」
同時にランディの足元で水色に輝く円陣が浮かび上がる。
ふわりと粒のような水色の光が浮き上がると同時に、描かれた文字を踏みつけていく。
軽やかでテンポよく文字を踏んでいく。
あのエリスよりも無駄のない動きに、私はランディって凄かったんだ……と今の現状を忘れて見入ってしまう。
そこでランディがその黒い何かに指をさして、
「我思うが故に我あり、氷の連華」
同時に、ランディの周りに幾重もの尖る氷が花弁のように連なった花のようなものが幾つも現れて、一斉に指差した先に飛んで行く。
標的は黒い化け物。
その氷がぶつかった所から氷が張っていく。
けれどすぐに鋭い刃物のような黒い何かがあの化け物から伸びて、それを打ち破る。
なんとかそれを私達の方まで来ないようにウィルが食い止めている。
そこでランディが再び先ほどの呪文を唱え始める。
そこで私の肩をたたいた。
「ベル、とりあえずは全員生きてはいるから、今は二人を食い止めてこの四人を治療しろ。……ベルの魔力ならできるから」
「う、うん……現実味がなくて動けなくなってた。我思うが故に我あり 祖を起点として扉を開け “光と癒しの庭”」
黄色の光が私の下の円陣に現れる。
その小さな円陣に一点が接するように白い線状の巨大な円が生じる。
その巨大な円の内側にその倒れている人達が入っていて、私はゴクリとつばを飲み込み文字を踏んでいく。
絶対に助けたい。
私の感情で魔力は制御されるらしい。
だから、私が助けたいと願うなら、その魔法は私が望むように発動するはずだ。
そこで最後の文字を踏んで、
「我思うが故に我あり、癒やしを満たす泉」
同時に私の小さい円から光が湧きだして、大きな線状の円の内側に光が水を満たすように満ちていく。
その光もどんどん強くなっていく。
ちらりと私の方を見たランディが驚いたような顔をしていたけれど、それはいい。
やがて光が消える。
そこでレオンが傍に行き様子を見る。
「……全員一命は取り留めている。あとはあそこにいるあれを倒せばいいだけだが……」
「何か問題が?」
「いや、やれるだけやってみろ。……いざとなれば俺が何とかするから」
相変わらず出来る限りレオンは手出ししない。
でも頭がおかしくなりそうなくらいの魔力がある私なのだ。
だから私も攻撃の手伝いをしようと思った所で、ランディが、
「ベル、私は高度ダンス魔法を使う。だからベルに魔法攻撃をして欲しい」
「高度ダンス魔法?」
「普通のダンス魔法は、その人の魔力量にある程度依存するとはいえ、その使える魔法に酔って上限が設定されている。だから魔法のレベルを上げれば魔力の少ない私でも強力な魔法が使える。デモは都度王に時間が掛かるから手伝って欲しい」
「わかったわ、まかせ……」
そこまで言った所で天井が崩れるようにして誰かがすぐ側に落ちてくる。
その人物はうんざりとしたように、
「いたたた、全く、しつこいわね……あら? そこにいるのは悪役令嬢ベルネット!」
ぼやいていたかと思えば私を見て、彼女は、ヒロインのマリアは、状況に全く気づいておらず、楽しそうに笑ったのだった。




