私のメイドちゃん、ゲットー
巨大な足音は、服装からどうやら沢山の貴族の生徒が走ってくる音だったらしい。
そして彼らの向かうその先に、マリアがいる。
そういえばこのヒロインちゃん、平民だったっけと思い出していると彼女は、
「そういえば今日は入学式。“入学式争奪戦”があったわね。……仕方がないわ、今日の所は勝負はおあずけね」
ヒロインが苦々しそうに言って、彼らから逃げるために走りだした。
そんな彼女に私はにこやかな微笑みを浮かべて、
「いってらっしゃーい」
と手を振り、もう二度と私の前に現れないで欲しいと切に願った。
だってこんな風に、出会い頭に毎回勝負を挑まれるのは大変そうだから。
そこでそれまで空気だったレオンが私に、
「あー、ベル、気に入られたかもしれない」
「何で!? 今の会話の何処にそんな要素が?」
「マリアは強いものが好きですからね」
そこですぐ側で全く別の人間の声がした。
人の気配すら感じさせないその人物に私はビクッとしつつ振り返るとそこには、青い瞳に銀色の髪をした少年が微笑みを浮かべながら立っていた。
ただ私はその声がどこかで聞いたことが有るような気がする。
何処でだっけと思いつつ私は彼に警戒を強める。
理由はただの女の勘だ。
ただ、この張り付いたような笑顔は、裏では何を考えているかわからない感がある。
そう思っているとそこでレオンが、
「あー、ベル。彼は俺の従兄弟で、ミカエル・フラグメントだ。ヒロインと一緒にいることが多い……ヒロイン側のサポート役だ。……それでいいか?」
「ええ、今は十分かと」
ヒロイン側のサポート役を名乗る彼を私は見ながら、というと私にとってのレオンみたいなものということになり、つまり、
「関係者?」
「そうなりますね、今後とも宜しく」
私に手を差し出すので私も握手する。
そこで遠くで爆音と砂煙、そして悲鳴が聞こえる。
何事と思って私が見ていると、ミカエルが、
「あー、マリアが戦っていますね、メイドにしたくば実力で私を倒してみろ、とでも挑発したのでしょう。……いつもの事ですね、では」
「もう少しあれは何とかならないのか?」
そこでミカエルにレオンが言う。
恐らくはヒロインの破天荒ぶりというか、先程のようにすぐに戦闘を仕掛けてくるあれといった、他にも何かあるのかもしれない性格的なものを指しているのだろうけれど、と私は推測した。
けれどそこでミカエルがレオンに笑い、
「どうやらマリアの興味はベルに移っているようだから、しばらく楽だと思うかな」
「それだ!」
「! 何がよ! というか大変なもの全部私に丸っと投げようとしていない?」
レオンが沈黙して、そしてミカエルがニコニコと笑い、
「では、マリアの所に行くのでそれでは」
「笑って誤魔化さないで、答えて行きなさいよ!」
「では、健闘をお祈りするよ。それでは!」
「ちょっと! ……逃げられた」
ミカエルが走って離れていくのを見送りながら、私は嘆息して……そこで気付いた。
「今、貴族達がマリア狙いであれだけ集まっているとしたら、平民の子達の競争率が低下しているかも。今のうちにゲットしに行く、行くわよレオン! って……うぎゃああ!」
そこで私は走りだしたものの、見えない何かにぶつかった。
同時に風船がぱちんと割れるような音がすると、一人の少女が姿を表した。
服装は青色なので、平民。
長い水色の髪に赤い瞳の、人形のような無表情の少女だ。
しかも私がぶつかったのに微動だにしていない。
どうしようと思いつつ私は、とりあえずぶつかってしまったので、
「えっと、ごめん、ぶつかってしまったわ」
「いい。私も視覚操作の魔法を使っていたから」
「そうなんだ。なんで?」
「追い掛け回されるのが怖くて」
どうやらあんな風に追いかけまわされるのが怖いらしい。
そんな彼女に私は有ることを思いついて、聞いてみた。
「貴族のメイドになるのが嫌なの?」
「……本当は、私みたいに表情があまりない子は嫌みたいだって、事前情報があったから」
事前情報ってと思いながら、けれど好みの相手は、貴族達はもっと早くにアプローチしているのだろうと思う。
つまり私は完全に出遅れていた。
それはそれで仕方がないけれど、
「だったら私のメイドにならないかしら。私も出遅れたの」
「! いいの!」
無表情なのに声が弾んでいる。
素直そうな子だなと思いながら、
「それとできればメイドというよりは、“お友達”みたいに接してくれると嬉しいかな。女の子の友達も欲しいし、これも縁かなって」
「……ぜひ、お願いします」
更に弾んだ声で彼女は言う。
よし、美人なお友達兼メイドを手に入れたと私は思って、そういえばそういった契約ってどうするのかと私が思っていると……するりと何処からともなくレオンが紙を出して、
「ここにベルとランディの名前を書いてくれ」
「レオン、何で彼女の名前を知っているの?」
「俺の特殊能力だ、ほら」
特殊能力の一言で済まされてしまった。
やはり事前に何か計算していたのだろうかと私は疑うけれど、それを確認する術は私にはない。
そこで書類に彼女がランディと名前を書く。
なので私の名前、ベルネットと書き込む。
これで契約が成立したらしい……そう思っていると彼女の直ぐ側に、水色のこのような画面が現れる。
好感度:●○○○○○○○○○
△ピッ!
好感度:●●●●●●●●●● MAX!
ランディちゃんの好感度が最高値になりました。
早めにこの子をゲットしてよかったなと私は思う。
でないと悪い人に漬け込まれてしまいそうだし。
そこで彼女、ランディちゃんが、
「ところでベルネット様は……」
「ベルでいいわ。私もランディって呼ぶから」
「はい! それでベルは、執事は必要ありませんか?」
そう、ランディは無表情で聞いてきたのだった。




