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誰でも突然かかる病  作者: ぐめら
彼らは知らない
1/15

初っ端から番外編、ある人の過去話(内乱前夜)です。

独白形式で、内容も少し……いえ、大分暗いめです。

この話だけ「残酷描写」があります。血の苦手な方は次話からどうぞ。

人名がやたらと出てきますが、本編には関係しません(隠された過去なので)。

尚、この連載は全15話(番外含む)を予定しております。

お暇つぶしの一助となれば幸いです。

 リザウさんの最期は、時々夢に見る。


 部隊内では反政府勢力の仕業、公式には病没としたが、誰も信じちゃいなかったろう。私が暗殺したと思い込んでいる(やから)が多かった。

 疑われて当然の立場ではあったが。

 事実を知っているのは、今は私とラーマさんだけだ。

 ドウコさんもサナンさんも、今頃は地下でリザウさんと仲直りを済ませているに違いない。それとも、リザウさんと一緒に亡くなっていたメイさんをはばかって、そっとしているだろうか。


 あの人は確かに異常な行動が多かった。あれだけ教養があって、何故ああも短絡的な行動が取れるのか、私には理解いたしかねる。が、さはさりながら、一個の英雄たる資質はあったのではなかろうか。

 あれだけ乱暴者でありながら、付いてくる者があったのだから。

 中には勘違い者もおっただろうが、心底からは憎めぬ所があった。もちろん暴力を振るわれる方はたまらんが。

 しかし、側近には恵まれなかった。唯一ラーマさんだけが、常識人だったが、それはそれで本人には辛かっただろう。主人格のリザウさんは酒乱だし、第一の側近面をしていたケニンはリザウさんの悪い所ばかりを真似るかのようだった。挙句が、ヘイラン。腰巾着面をして、こちらの評判を落とすことで、どこからか金を貰っていた。


 一体いつから、そんな裏工作に手を貸していたのか。

 あの頃の我々は、まだあの暴徒どもからさほど認知されてはいなかっただろうから、預かり元であるエッツァー侯の名を汚すための工作であっただろう。

 リザウさんにそれを告げたのは私だ。ある意味では、私が殺したとも言える。そして反政府勢力が殺したというのも正しい。


 実際に見たわけではないが、あの晩、自分でヘイランに(ただ)したのではないか。その後、斬り合いになり、ヘイランを仕留めたものの、手傷を負った。あの人の性格から察すれば、自害するつもりだったが失敗した。ラーマさんを呼び、介錯をさせた。

 メイさんまで死んでいたのは、どうも()しかねるが、ひょっとすると、メイさん本人が望んだのかも知れぬ。

 他の女は話の前に帰したのだろう。ラーマさんは郷里に知らせに帰ったに違いない。あの人は修羅場にはそぐわぬ人であった。リザウさんがいなくなれば、祭都に留まる理由などあるまい。

 そんなあれこれを公表することはできなかった。それではリザウさんの名に傷が付く。

 ヘイランの口車に乗せられ、踊らされて、大恩あるエッツァー侯の顔に泥を塗っていたというのは、全く不覚と言わざるを得まい。

 日頃の行いもある。

 まるきりの頭の悪い野人のように思われるのは、目に見えている。

 あげく、自害もまともに出来なかった、では、武人と認められないかもしれぬ。

 それならいっそ、何者かに襲われたと装うことにした。

 悪目立ちしていたリザウさんを、苦々しく思っていたのだろう。エッツァー家からは特に追求はなかった。ミーツェにいる兄上殿へは、おそらくラーマさんから知らされていたのだろう。こちらも問題にされなかった。

 部隊内では、あっさり反政府勢力犯行説を信じた者もいたが、私を疑った者は、逆に押し黙った。

 パッシャーは疑いの目で見ていたが、説明する訳にはいかない。

 ゲールさんやシロスは、私を信用していただけだろう。表立っては特に何も言わなかった。そのせいで共犯ということになったようだが。

 マーサクやケイスは、案外反政府勢力犯行説を信じていたのではないか。

 マーサクはドウコさんを、ケイスはサナンさんを信用したのだろう。

 パッシャーは、エッツァー家の下命で、私筆頭に暗殺を実行したと思っていたようだ。まぁあいつは「おとまり」組だったのだから、当夜の状況などなにもわかるまい。

 リザウさんは、それも狙って日を選んだのだろう。人が多くては、話の内容が知れ渡ってしまう。万一へイランが無実であれば、嫌疑を受けただけでも自害しかねない内容だ。だから部隊中が留守になるような口実を作らせた。

 私から見れば、どこぞに連れ出せば事は済むと思えるが、まぁあの人には常に取り巻きがぞろぞろ付いて来ていたから、用心したのだろう。



 夢の始まりは、血の海だ。実際、血の海と表現してもよい現場ではあったが、夢では本物の海のように、波が打ち寄せてくる。

 やがて波に運ばれて、血刀を握るリザウさんが現れる。

 いつの間にか、離れの部屋になり、リザウさんとヘイランが向かい合っている。

 メイさんはいない。廊下にでも出ているのか。ラーマさんもいない。たぶんこの時点では何も知らされず、寝ているのだろう。

 向かい合った二人は、対照的だ。リザウさんは苦虫を噛み潰したような面、ヘイランは、最初蒼白であったが、開き直ったのか、嘲笑を浮かべている。やがて、手近にあった刀で切りかかる。リザウさんは鉄扇で受けるも、滑って指が飛ぶ。刀が床に刺さっているうちに、体勢を整え、刀掛から副刀を取り、抜き放つ。

 通常であれば、リザウさんの方に分があったろうが、指が飛んで片手だ。ほぼ五分の斬り合いになった。そのうち、剣戟の音を聞いて、ラーマさんも起き出し、まずは一緒にいた女を逃がす。隣家にいるこちらへ知らせに来なかったのは、気が動転していたのだろう。まさか、襲撃者がこちらだと思ったのではあるまい。まだそこまで険悪な雰囲気にはなっていなかった。少なくとも、私とリザウさんの間では。

 ラーマさんが駆けつけた時には、リザウさんは重傷を負いながらも、ヘイランを一撃で倒したところだった。肉を切らせて骨を断つ。手傷を負いながらも、冷静にヘイランの隙を覗っていたに違いない。

 やってきたラーマさんに、事の経緯を伝え、己はこの不始末の責を取って自害するので、親類にはそのように伝えるよう命ずる。

 それまで隠れていたメイさんが出てきて、リザウさんが死ぬのならば共に逝かせてほしいと懇願する。

 通常では考えらるれぬが、リザウさんは女に甘い。いや、頼ってくるものに甘いというべきか。願い通りに、苦しまぬよう、一刀で首をはねる。


 実際は、そんな物語のような経緯ではなかったかもしれぬ。

 あれだけ人に知られることを避けたにもかかわらず、メイさんに知られてしまったので、口封じに斬ったことも考えられる。

 どちらにせよ、メイさんを斬ったことで、自分の始末をつけるための体力が足りなくなってしまった。副刀を立てることまではできたが、引く力がない。仕方がないので、ラーマさんに介錯を頼む。

 ただ、ラーマさんはさほど剣術は上手くない。首を落とすのは無理なので、首筋を斬った。


 後は、血の海だ。

 およそ三人分の体中の血が、室内に広がる。

 リザウさんの絶息を確かめ、ラーマさんは隊所を後にした。

 母屋の住人(隊所として離れを借り上げている家主)は、物音が完全に途絶えてから、自分で確かめるのは恐ろしいので、こちら(隣家)へ知らせに走った。

 薄々何事かあるだろうと思っていた私は、同様のサナンさんと共に、先頭きって母屋へ入った。ドウコさんはおそらく「おとまり」組を呼びに人を手配し、戻ってくる者達のために隣家に残った。

 血の海にたどりついた私たち二人は、絶句した。

 ひとまず、家主に明かりを貰い、近づかないように言った。

 一般の人に見せるべき光景ではない。

 次に、現場から推察した成り行きを組み立て、部隊内には秘すべきだと結論した。それがリザウさんの望みだろうと。

 そこで、何者かに襲われたことにする。リザウさんは討ち死に。しかし、その場合、無傷で首だけ切られたヘイランが不自然だ。刀を鞘に戻し、寝首を掻かれたことにする。

 位置が多少不自然でも、逃げようとしたと思えばそう見えぬでもない。あまり手を加えても、余計に不自然になるだろうから、それだけで、ひとまず報告に戻る。

 次第に戻ってきた者の内、さほど酒の入っていないもの、肝の太いものを選んで始末に向かう。

 せめて遺体だけでもこちらに運んでおくべきだろう。

 その前に、一応現場の調書も作っておく。役所やエッツァー家から何か言ってきた時のために必要だろう。

 遺体を運び出しても、この部屋でどんな惨劇が起きたか、消せる訳ではない。凄まじい血の量だ。


 血の海だ。

 波が徐々に迫って来る。足首を浸す。やがて腰まで。胸まで。そして……



 目が覚める。始まりと終わりの血の海は同じで、内容も、大方同じだ。あの現場を見て思ったことが、そのまま夢になっている。

 時に途中から始まり、ヘイランが死んだところで終わる。また、メイさんの首が飛んで終わることもある。

 リザウさんについて、他にいくらでも思い出はあるというのに、夢に見るのはこの私の想像の産物である最期ばかりだ。

 よほど無念に思っているのだろうか。

 だとすれば、あの血の海は、私の後悔の念が生み出したものだろう。胸にまで迫るが、頭までどっぷりと浸かる事はない。だからこそ、ここまで生きてこられたのではないか。

 後悔をしているといったところで、他にやりようがあったのかは疑問だ。

 どの道、リザウさんは自害しただろう。

 だからこの思いは、そこまで考え及ばなかった自分に対する苛立ちのようなものかもしれない。


 リザウさんの行状については、再三エッツァー家からも改めるように言ってきた。だからあの事件については、内部粛清だと見ているかもしれない。

 上の要望を受け、我々は行状の原因を探ることにした。

 最初は、ケニンが原因かとも思ったが、よく見てみるとさほど二人は親しくしている様子でもない。やっていることはあまり変わらないが、ケニンはただ悪乗りしている風だった。頭を使わない男だ。

 やがて、自滅していった。己の過去に足をすくわれたようだった。

 後の人物は三名。うち、ラーマさんは明らかに違う。暴挙を止めようとしてかなわないだけだ。

 残るはヘイランとトギノ。

 トギノはただリザウさんを慕っているようだった。その行動が正しいものだと疑ってもいない。良く言えば純粋、悪く言えば浅慮。周囲の迷惑は思いもよらぬ、視野の狭い男だ。ただし、リザウさんを貶めることなど考えてもいなかっただろうから、除外される。

 残るはヘイラン。私自身が動けばすぐに知られるだろうから、小者を数人やとうことにした。一般隊員どころか、幹部にも内密に。ただし、金の都合もあるので、サナンさんには協力してもらった。

 黒か白か。白であった場合は、さらに範囲を広げて一人ずつ確認せねばならなかったが、その可能性はほぼなかっただろう。雑多な取り巻き連中の中に、これといって目立つものもなかったからだ。

 まず、小者には、ヘイランの隊外での行動を追跡させた。続いて交友関係。

 基本的に、行動はリザウさんと共にすることが多い。直接過激派とのつながりを掴むことは出来なかった。そこで、ヘイランと特に親しい隊員を当たらせる。多少骨が折れたようだが、じきに尻尾を掴んだ。


 ヘイランに目を付けた切欠である商家焼き討ちから、およそ一月かかった。


 そもそも、商家の件は、我々の見世物興行(きんさく)に不満を募らせたリザウさんが、いつものように金策(というしかあるまい)に出かけたことが発端だ。

 あの商家には迷惑極まりない話だが、その以前に暴徒どもから目をつけられ、身の安全のために献金した。たぶんその話もヘイランから聞かされたに違いない。それほど金が余っているのならこちらにも、となったのだろう。

 全く、商家にすれば踏んだり蹴ったりという物だが、一応こちらは治安を預かる立場だ。あちらの暴徒と違って、断ったところで命まではとられまい。

 そう考えたのか、あるいは本当にそうだったのか、応対した番頭は、主人の留守をたてに、ひとまず断ろうとした。第一、金貨一千枚も吹っかけたのでは、それも無理はなかろう。

 そのあたりの計算はしなかったのか、それとももともと嫌がらせのつもりであったのか、リザウさんは脅すだけ脅して引き下がった。


 が、ヘイランがそれに便乗した。


 リザウさんの命令だと言って、手隙の隊員を動員し、商家を焼き討ちしたのだ。火消しも役人も脅してそばへ寄せ付けない。

 これには、リザウさんも驚いたことだろう。少々脅しつけておけ、くらいの気持ちで命じたものが、神王御座所の近くの大店へ付け火だ。

 どこか人の好いリザウさんは、事の真相も知ろうとせずに、ただエッツァー家からの沙汰があれば、全ての責任を引っ被るつもりだった。我々としては、連座する義理はないが、場合によってはそれも致し方なしといったところだ。

 が、その数日後に政変があり、続いて反政府勢力の親元と目されるナーガス家が祭都から退去の沙汰となった。

 おかげで焼き討ちの件はうやむやとなったが(ナーガス家が退去の折に町屋に火をかけていったせいも大きい)、一つだけ、リザウさんの行状を改めさせるように厳しく言いつけられた。


 これまでにも、何度か反省はしているようだったが、結果を見れば、悪化の一途をたどっている。

 本人の短気は改めるのは困難だ。なれば、周囲が気をつけねばならぬ。

 気をつけているのは、残念ながら、発言力の弱いラーマさんだけだった。

 リザウさんも、乱暴だけの人ではない。人を気遣うところもある。

 エッツァー家から我々に言ってきたのは、最後の機会というものだろう。


 次は、ない。


 次に何事かあれば、一党全て断罪もありうる。

 場合によっては、内部粛清もやむなし、の意図も感じる。

 しかしまずは、暴挙の根幹を探らねば。焼き討ちの件に関しては、リザウさんが火付けを指図したとは思えない。あの人は根っからの神王崇拝者だ。もし火が広がれば御座所にまで及ぶ、という危険にきづかぬ筈がない。

 そこまで頭が酒にやられているとは思えない。

 裏があるのだ。

 火付けの首謀者が誰であったのかは、すぐにわかった。現場へ行った幹部は一人しかいない。こちらは金に頭を侵されたのだろう。それとも、リザウさんの性格から、罪は全てかぶってくれるから、保身の必要を感じなかったのか。

 たとえリザウさんが己の責任だと言ったところで、現場責任者だ。私が何としても連座させただろう。


 いっそ、そうさせた方が良かったのかもしれない。

 そうすれば、リザウさんの武人としての面目は保てた。ヘイランは逃げ出したかも知れぬが、私が追っ手となってでも、討ち果たしただろう。ただし、この場合、こちらもいくらか死傷者が出ただろう。ヘイランの剣はなかなかのものだ。だが、メイさんは死ななかった。それとも、後追い自殺をしただろうか。


 そう、このあたりが後悔の原因だろうか。

 結局は、残された者の繰り言だ。

 死んだ本人は、きちんとけじめをつけたつもりかもしれぬ話だ。


お疲れ様でした。

過去の夢を見て、明け方に夢うつつ状態であーだこーだと思い巡らせている暗ーいお話でしたが、次話からはもうちょっとこう……会話文が入りますから!

明治時代物で書いていた話を無国籍に加工しております。違和感・説明不足などございましたら、ご指摘いただければ幸いです。

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