はしれメロス
はしれメロス
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。しかし決意した。ディオニスはメロスとセリヌンティウスの友情に割って入り、セリヌンティウスの処刑を取りやめることで今までやってきた行いを無かった事のようにしたのである。
もちろんそんな茶番で今までディオニスがやってきた事を忘れるものはいなかった。
政治が分からず、学も無い。羊と戯れるしか能のないニートのようなメロスでさえもそうおもっていたのである。
にも関わらず彼は自分の事を悔いを改めて成長した賢王などと言い出したのである。
メロスを初め多くの民は彼のしてきた行いを許すことは無かった。
むしろ賢王と名乗ったことを発端に民の怒りは二次発酵をしたパン生地のように膨らんだのである。
メロスは考えた。どうすれば彼を苦しめることが出来るか。自分たちにしてきた邪智暴虐な行為の卑劣さを思い知らせることが出来るのか。
しかし羊と遊び、口笛を吹く事しかしてこなかったプータローメロスにはいい案は浮かぶことはなかった。
メロスは一人でダメなら二人で考えればいいと思い竹馬のともセリヌンティウスを頼った。
「私の一番の友セリヌンティウスよ。私はどうしてもあの自称賢王を許すことができぬ。私たちの友情をイメージ戦略に使ったあの暴君をどう懲らしめればいいか、私には思いつかない。どうかその知恵を貸してくれないか? 」
メロスとセリヌンティウスは和解はしたがやはり、その関係が元に戻ったわけでは無かった。
セリヌンティウスは自分を人質として差し出したことに憤りを感じていたし、メロスも昔のように話しかけることは出来なくなっていた。
しかし心優しきセリヌンティウスはそんな愚者にも歩み寄ろうと今までどうり接し続けていた。
「なるほど、確かに私も賢王(笑)を許すことができぬ。メロスよ君もけんおうになるのだ」
「私が賢王に? なれる筈がない。確かに私は羊にさえ好かれるエリート自宅警備兵だが王たる器にはなりえぬ」
「メロスよ、賢王になるのでは無い。拳王になるのだ。四人ものは山賊をたちまちに倒した君ならなれるだろう。体を鍛え殺意の波動に目覚め覇道を進むのだ!」
その言葉を聞きメロスは立ち上がりセリヌンティウスに礼を言うとすかさず家に戻り体を鍛え始めた。
ひたすら体を鍛え、今まで友のように接していた羊たちとの交流は次第に減っていった。
彼の筋肉が増えるにつれて、あの昔の笑顔は姿を隠していった。
一年目には笑顔を失い、二年目には羊を惨殺し、三年目達する頃にはその体からは禍々しいオーラを放ちま修羅へと変貌を遂げていた。
そして五年目にはあらゆる人体の弱点を理解し一撃で葬りさる一撃必殺を完成させていた。
「フハハハハ。ディオニスよ、待っているがよい。今我が貴様の生を断ち切ってやろうぞ!」
その日王城に悲鳴が響いた。
そう拳王メロスが王城にたどり着き王の近衛を一瞬にして吹き飛ばしたのである。
「久しぶりだな。ディオニスよ、我がこの瞬間をどれほど待ち望んだことか……」
「まさか貴様五年前友を見事救い出した英雄、メロスか!?」
ディオニスは信じることが出来なかった。今のメロスに五年前友を救い自分を改心させた英雄の姿はなく五年前の自分を幻視させたのである。
「ああ、そうだ。今宵はこの拳王メロスが貴様を裁きに来たのだ。我とセリヌンティウスを利用した罪忘れたとは言わせぬぞ」
ディオニスには利用したと言う言葉が理解できなかった。
確かに周りからはイメージ戦略だと思われてはいたがディオニスの心は確かに改心していたのであったのだから……
「フハハハハ。SEKKYOUなどでは生温いDANZAIだぁ!」
そういうと、ディオニスの前まで行くとその拳を振りあげた。
その瞬間メロスの足にが一本の包丁が突き刺さっていた。
「我が愛しき妹よなぜここにいる?」
そう。メロスに包丁を突き立てたのは実の妹であった。
「なんでって、ディオニス様は私の愛しい旦那様だもの。お兄様もプータローから一気に王族になれたのよやったじゃない」
そういいながら体をくねらせる妹にメロスは激怒した。
「貴様の夫は、牧人の青年はどうしたのだ!」
「あーあの人? 捨てたわよ。だってディオニス様のモノの方があの人より何倍も逞しいんですもの」
彼女がそこまで言った瞬間彼女の体は木っ端微塵に粉砕された。
「ディオニス貴様……」
既にメロスの良心は両親の元へ旅立っていた。
「貴様には我が身につけた技の中でただ一つ一撃必殺ではないものを味合わせてやろう。」
そう言うとディオニスの足を踏みつぶし、次は膝その次は股関節と次々に関節を潰していった。
「苦しいか? 我が弟はもっと苦しんだのだ。気を失うでないぞこれからが本番だ!」
気を失っては蹴りおこし、再び殴るそれを三回は繰り返した頃には既にディオニスは息絶えていた。
息絶えたディオニスに油をかけ火を放ちメロスは叫んだ。
「我が名は拳王メロス!かの邪智暴虐な王。ディオニスを討ち取ったり」
あぁ、はしれメロス。
覇王の道へ、はしれメロス足を止めることなく。