第1妖 軽やかな朝にすっ飛ぶワタシ
「はあっ…はあっ…はあ…」
外気が心地よくなってきた、4月。靄の残る朝。
高台にある団地の中、自転車を懸命に走らせている少女が一人。
息を切らし、時々立ち漕ぎになりながら、なるべく早く目的地に着けるよう必死で進む。
「はあ…えふ、…はあ…ふー」
少女はブレザータイプの制服を着ており、前かごにはかごに入りきらないくらい大きなカバンを
載せている。ショートカットにした黒髪は風になびかず、前髪が吹き上げられ、
おでこが丸出しになっているのを気にも留めずに走り続けている。
まだ学生や通勤する者の姿は周りに無い時間帯らしく、誰かにぶつかる心配はない。
が、今の彼女は、障害物が出現すればとっさに回避できないほどのスピードを出している。
彼女はこのように荒っぽい運転を普段からしていない。今日は特別だ。
やがて少女と自転車は、高台から降りる緩やかに蛇行した坂道に差し掛かる。
いつも通り、車体を小刻みに震わせながら坂道を下っていく。
この道路は歩道と車道の境目があいまいで、おまけに歩道が極端に狭い。
なので車道に乗り出し気味に駆け下りる。
いつもはブレーキを掛けながら行く所を、今日はタイヤが勝手に動くに任せて勢いをつけた。
怖さはなかった。こんなことをした経験がないわけではない。
今日みたいに急がなくてはならない日には、時々やっている。
だから、気が緩んでいたのかもしれない。
だから、目の前の車に、咄嗟に反応できなかったのかもしれない。
気が付いた時には、すでにトラックのヘッドライトが眼前にある状態だった。
「…やっ!?」
短い悲鳴を上げて、ブレーキに手を伸ばす。
間に合わない。
車体を横にずらす為に、ハンドルを急な角度に向ける。間に合った。
接触はしていない。
しかし、自転車の進行方向にあったのは、ガードレール。
そしてその先は、コンクリートで固められた人工の崖。
前輪の片側をガードレールにぶつける。と同時にサドルから離れ自分の身体がふわりと浮くのを感じた。
浮いて、そして、落ちる。およそ6~7mの高さから。落ちる、落ちる―!
ここまでが一瞬だった。
刹那、影が走った。
少女は落ちていく間に、それを見た。
黒い、羽根。大きな、羽根。人?
けれど少女は、それが何かを確認する前に、その衝撃から、そこから先の記憶を亡くした。
視界がブラックアウトする。
-私…死んじゃう…んだ。
-ごめんなさい。悪いことしてたから…バチが当たっちゃったんだ、ね…