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嘘つき魔王  作者: 氷純
魔王と世界 魔王は世界 魔王の世界
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六十八話 エピローグ

「ただいま」


 白く甘ったるい空間で目が覚めて、私は言った。


「浅はかな魔王様が帰ってきたよ」


 お出迎えも無しとはけしからん。

 神は何も言葉を返してこない。無言で私に先を促している。

 もちろん、乗ってやる義理もないので私は黙りを決め込んでやる。


「……やれやれ、戻ってくるのが随分と早いな」


 言葉とともにゆったりとしたローブに身を包んだ男が現れた。

 出たな、全知無能。


「お小言を頂戴しに参りましたよ、どぶ腐れ外道神」


 腕を組んで言い返す。

 売り言葉に買い言葉。ちなみに私のはタイムセールス中なので数で押す。


「浅慮と言われた理由は分かったか?」

「誰かに助けを求めれば良かった、そう言いたいんでしょ」


 だから私はベリンダと最初に知り合ったのだ。

 彼女は広場から連れだしてくれる相手と理由を欲していた。

 私が友人となり魔王と誤解されて追われていることを説明すれば、あるいは仲間になっていたかもしれない。

 誤解だと言え、私に見せた夢は神の忠告だった。声を上げろと教えていた。


「けれど、私は広場を壊してベリンダを騎士団に入れた」


 だから、神はオイゲンと私を引き合わせた。

 オイゲンは逆恨みで殺されようとしていたから。


「私が一人で悪意を背負うとどうなるか、オイゲンで示すつもりだったんでしょう?」


 神が頷いた。

 それを確認して私は口を開く。


「まさか、オイゲンに向けられた悪意まで背負うとは思わなかった?」

「あぁ。よもや、あの場面ですら悪役に徹するとは、な」


 だから神は、悪役を続けていた村長と私を引き合わせた。

 悪役を続けた先にあるのは恨まれ続ける孤独な死だと、村長の最期を見届けさせて私に教えるつもりだった。


「残念だったね。私が生き返らせちゃったよ」

「……あやつは二人に謝ったぞ」


 良い知らせね。

 きっとあの爺さん、どんな顔していいか分からずに近くの森をさまよった事だろう。

 私は笑いをかみ殺す。


「告白された夢はカーリンとクルトを示していたのかな?」


 もしあの告白を受けていたら、私は味方を手に入れていたかもしれない。

 丁度、カーリンにとってのクルトのような味方。


「けど、私はあの時ですら悪役を貫いた」


 そして、神でさえ収拾をつけられなくなった。

 それが、牛頭を含む魔物の裏切り。


「違うな」


 初めて神が否定の言葉を口にした。


「あれがなければ、貴様は痛みから目を逸らし続けただろう」


 つまり、お前の仕業だったわけだ。


「予想していたのだろう?」

「まぁね。でないと言わないでしょ」


 戦場で『お前が手を出したらこの様だ』なんて台詞。

 神が私を見つめる。

 種明かしは終わり。後は私の考えを述べるだけ、か。


「私は満足して死んだよ」


 胸を張って答える。

 神が一瞬だけ目を見開いた。


「まだ、分からぬか?」

「逆に訊くけど、私が何で満足したか分かるの?」

「強がりであろう」


 分からないのね。あんたは死なないから無理もない。

 私はため息を一つ吐く。


「私は自分を貫いて、綺麗に死んだのよ」


 神が私の心の底を探るように見てくる。

 本心しか喋ってないのに、話し甲斐のない奴ね。


「あなたは死ぬ事の意味を理解できていない。だから過程を重視してる」


 私は違う。結末である死に満足するために生きている。

 価値観が違うと言えばそれまで。


「生きてる間も満足すればよかろう」

「それがベストね。だから、これからそうしてくるよ」


 悪戯っ子な笑みを浮かべる私に神は額を押さえた。


「貴様は、素直さの欠片もないな」


 徐々に、私の体が消えていく。


「まだ、第一の生が終わってないと何時から気付いていた?」


 神が呆れを含んだ声で言う。


「最初からかなぁ。人の痛みを思い出しても活用する場面がなきゃ意味が無いでしょ?」


 神が深々とため息を吐いた。

 そして、気を取り直すように咳払いをする。


「最期の夢の意味は分かるな?」


 自殺した日の夢ね。


「壊すな、手に入れろ! って感じかなぁ」

「諦めるなという意味だ。人の痛みは分かるな?」

「自分を傷付けるなって意味よね」


 自分に嘘ついて、孤独を孤高に置き換えて生きてきたから。


「向き合う覚悟は出来てるよ。戻して」

 いじめのあるあの世界で、私は生きてみるよ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 案外、人の体は丈夫に出来ているらしい。

 そう言ったら、医者に「もう飛び降りるなよ」と釘をさされた。

 病室に見舞いは来ない。私を気遣う看護士との会話は増えるばかりだ。

 教室で大暴れした件に関しては学校長を呼びつけて、痛み分けにするよう脅しておいた。

 死者が出ていないから出来る芸当。私に殴られた連中も明るみに出るとまずい事実の前に被害届を出せずにいたらしい。

 これから卒業まで色々と大変だろうけど、私は楽観視している。

 人間と魔物を相手取って、一人で戦争するよりは簡単だろうから。


「さて、何から始めようかな」


 病室の窓から空を見上げながら私は呟いた。


「友達つくるかなぁ」


最後までお読み頂き、ありがとうございました。


評価や感想を下さる方々のおかげで書き上げることが出来ました。

この場を借りてお礼申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 古い作品なので今更感はありますが、ずっとブックマークしっぱなしだったので、読んでみました。 一応、ちょっとずつ神の想定を越えつつ、最後はきれいに終わる形になっているんですが、相応に主人公に…
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