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嘘つき魔王  作者: 氷純
魔王と世界 魔王は世界 魔王の世界
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五十八話 星と月

 歓迎の宴はなく、粛々と魔物達は散らばった。

 天魔からは自由に過ごせとのお達しだ。

 魔物達は私との距離を測りかねているらしく遠巻きに見つめてくる。

 その視線を無視して私は一人、食事を準備した。

 牛頭は天魔に呼ばれて今までの旅を報告している。

 魔王と呼ばれていても見た目は単なる人間の私では信頼性に欠けるという天魔の判断だろう。

 知性がある分、感情を優先しがちなのかもしれない。

 目的地に着いた事もあり、牛頭から荷物を全部預かっているから特に問題はない。


「魔王は何を食すのですか?」


 黄金山羊が近づいてきて私の対面に腰を下ろした。

 一本足だというのにスムーズな体重移動で不安定さを感じさせない。

 少し感動した。


「雑食だよ。好き嫌いはあるけどね」


 黄金山羊に答えつつ、フライパンに具材を投入する。

 近くに川がないので鍋に使う水が確保できなかったのだ。

 野菜炒めを作る私に黄金山羊が眉を顰めた。


「草に火を通すとは、変わった事をなされるのですね」

「生だとお腹を壊すのよ」

「その点は見た目通りの人間ですか」


 私は紛う事なき人間よ。魔王は職業とかあだ名とかそんなモノだ。

 言わないけど。


「この群はどこに向かってるの?」


 明らかに何処かを攻めるために編成されているのが気になって訊ねる。

 魔王である私が天魔を頼るとは限らない以上、騎士団を見据えて整えた群とは思えない。


「……天魔の黒角が倒されて以降、人間共が活気づいておりましてな」


 黄金山羊は南の空へ視線をやる。


「人間の街を攻める気なの?」


 ヴェベストロー平原の入り口にあった城塞都市を思い浮かべる。

 今思えば、あの城壁は天魔達に対抗する必要から出来たのだろう。


「天魔、蛇姫様は平原の魔物が人に害される事に心を痛めておいでです」

「だから都市ごと滅ぼして人を遠ざけるのね」

「左様に御座います」


 かなり荒っぽい。しかし、有効かもしれない。

 この群に私がいなければ、だけど。

 この世界の人間は私を殺すために騎士団を持ち出してきた。

 未だに騎士団の規模が大きくならないのは私が直接的な被害をあまり出していないからだろう。せいぜいが貧相な村一つの被害。

 私がこの世界に来て数ヶ月でその程度だから支配層も安心して権力闘争しているはず。

 騎士団が教会所属なのも国の道具にされるのを防ぐためだろう。

 だが、私が街一つ落とすと状況は変わる。

 騎士団に加えて街が所属している国が討伐軍を出してくる。それはもう、ここぞとばかりに手柄を取りにくる。

 魔王である私の命という手柄を求めて。


「街を滅ぼすのは勝手にすればいいけど、私は参加しない方が賢明ね」

「それは困ります。魔王様におかれましては戦場に出向き我等の旗となって頂かなくてはなりません」


 黄金山羊が身を乗り出してくるのを手で制した私は天魔の意向を確かめるべきだと説明する。

 元々、人間という脅威を取り除くための戦いなのに私が行ったら本末転倒だ。


「しかし魔王様が蛇姫様と接触した以上、戦場にいなくとも手を引いていると思われるのでは?」


 黄金山羊が反論する。

 それに違和感を覚えて私は悟られないように黄金山羊の表情を探った。


「それもそうね」


と言いながら、私は納得していない。

 ただ、様子を見ようと思っただけだ。


「納得して頂けて何よりです」

「とりあえず、私の懸念は蛇姫に伝えておいて」

「かしこまりました。しばしお待ち下さい」


 立ち上がった黄金山羊は私に深く礼をするとその四枚の羽で浮かび上がり、天魔の元へと飛んでいった。

 黄金山羊が嘘を吐いているのかは蛇姫の動きで判断しよう。

 私が蛇姫と接触した事実は魔物しか知らない。

 戦場に姿のない私が裏で手を引いているなんて想像は魔物ではない街の人間に出来ないのだ。

 なおかつ、魔物の索敵能力は高い。黄金山羊を始めとして空から探る事が出来る上に臭いや音に敏感な奴もいる。

 ただ、私が疑心暗鬼になっている感も否めない。補強する判断材料が欲しかった。

 一部の魔物達が人間と繋がっている可能性についての情報が。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「お待たせいたしました」


 黄金山羊はすぐに戻ってきた。

 野菜炒めを食べ終える時間もない。

 私は立ち上がって土魔法で椅子を作る。

 割と真剣な話だし、雰囲気作りが大事よね。

 黄金山羊の嘘を見抜けるように真正面から顔を見たい。


「器用な真似を致しますね……。」

「あなたも魔法が使えるんでしょ?」


 サイ型魔物は土の魔力で斧を大きくしていたし、黄金山羊も似たような技が使えそうだ。


「作るとしてもそんな細かい装飾は無理です」


 黄金山羊が岩の椅子を鑑賞しながら言った。

 一応は魔王なんだし、質素な椅子だと威厳がなくなるでしょ。


「魔法陣でも使えばーーって無理だね」


 頭の中で魔法陣がイメージ出来るなら椅子をイメージした方が手っ取り早い。


「地面に描けば可能でしょう」



 早い話、知性体でも複雑な図形は頭に描けないらしい。球形魔法陣をパクられる心配はないのね。


「蛇姫は魔法陣も使えるのよね?」


 村長に魔法を教わったのでお役御免になったけど、当初の予定では天魔に魔法を教わるつもりだった。


「蛇姫様は魔法陣も詠唱も使えます。魔王様のような立体の魔法陣ではありませんが」


 球形魔法陣を使えたら私も驚くよ。

 あれは私が考えたんだし。


「そんな事より、蛇姫様に伝えた案件です」


 それが本題だったね。忘れかけてたよ。

 私は野菜炒めを口に運びつつ促す。


「結論から申しまして、魔王様には参加して頂きたい」

「理由は?」

「この度の戦で功を挙げて頂かなくては、人間の形をした魔王様を認めぬ者が出るであろう、と」


 筋は通っている。


「わかった。一蓮托生という事ね?」

「天魔は仲間を見捨てませぬ故」


 その仲間に私が含まれているかを訊いてるのよ。

 どちらにせよ、答えは同じだ。私は備えておけばいい。


「それと、蛇姫様よりもう一つ」


 黄金山羊は眉を顰めて続きを渋る。しかし、結局は言うことにしたようだ。


「明日は新月だとの事です」


 空を見上げる。浮かぶ月は細い。

 ただ、あれは満ちていくはずだ。


「そう。なら、星明かりを楽しむよ」


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