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嘘つき魔王  作者: 氷純
魔王と世界 魔王は世界 魔王の世界
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五十六話 男装

 岩テントを解除した私を出迎えたのは酷い悪臭と凄惨な光景だった。


「……散らかし過ぎよ」


 呆れて牛頭を睨む。

 枯れた草を彩るどす黒い赤と朝の空気に混じる刺激臭。

 原形を留めているのは二人だからパーツすら分からなくなっている分を含めると何人いたのか。


「見つかる、前、殺す」

「こいつら私達に気付かずに近寄ってきたの?」


 何とも運のないことで。自業自得だけど手は合わせておこう。


「お疲れさま」


 無駄足と無駄死にを労う。

 さて、一刻も早くこの場を去ろう。

 撤収準備を始めた私は牛頭に呼ばれて手を止める。


「魔王、食事、しない?」

「鼻が曲がりそうだし、こんな状況で食べられないよ」


 トマトサラダを見ただけで吐きそう。

 トマトないけど。

 牛頭から皮袋を取ってテント用の石を入れる。


「食事、出来る」


 そう言うと牛頭は地面に根っこを埋めて食事モードになった。


「止めておきなよ。血を吸って葉っぱが赤くなるよ」

「紅葉?」

「似合わないイメチェンは自己嫌悪の元よ」


 赤髪なんて今時大学生でもやらないよ。パンクロッカーじゃあるまいし。

 死体の傍で不謹慎な会話をしつつ、皮袋を牛頭の枝にかける。

 すっかり荷物持ちが板に付いてきた牛頭は文句も言わずにされるがままだ。

 私は足下に転がる男に躓いたりしつつもその場を去る。

 死体になっても邪魔な奴ら。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 太陽も高く昇ったので計画通りに空から探すことにした。

 視力は良くも悪くもないのであまり高くは飛ばずに辺りを見回す。

 その状態で動き回り途中で牛頭の枝に腰掛けて休憩を挟んだりを繰り返していると日が落ちる頃、ようやく魔物を見つけた。

 黄金色の羽が四枚生えた一本足の山羊。

 空を飛んでいる成金なその山羊は私が手を振って呼び止めると高度を落とした。

 黄金山羊は私を見て怪訝な顔をしたと思うと牛頭に話し掛ける。

 曰わく、非常食は選ぶべき。

 もっと肉付きの良いモノを狙うべきだとのこと。

 つまり、私には贅肉がないという事ね。

 褒め言葉として受け取っておこう。


「して、何用か?」


 黄金山羊が訊ねてきたのを幸いに天魔の居場所を聞き出す。


「あの方に会いに来たのか。もうじきここを通るだろう」

「もしかして、天魔に先行して危険がないかを確かめてるの?」


 私が疑問を投げかけると黄金山羊が首肯する。

 思ったより統率が取れている。まるで軍隊ね。


「それより貴様は何者だ?」

「えっ? 非常食でしょ」

「冗談と区別の付かぬ愚か者か?」

「そっくり返すよ」

「……魔王、喧嘩、するな」

「はいはい」


 牛頭に窘められて肩を竦める私に黄金山羊が目を見開く。


「噂に聞く魔王は貴殿の事か。失礼した」


 いきなりの低姿勢に今度は私が面食らった。

 本当に魔物なの?

 いくら知性があっても礼儀は後から身につけるもの。

 天魔は礼儀に五月蝿いのか。仲良くやっていく自信が一気に無くなった。

 それでも会うしかないのが悲しい所。


「出来れば案内してほしいけど、場所だけ教えてくれればいいよ。こっちで出向くから」


 私の提案に黄金山羊は首を横に振った。


「それには及びませぬ。天魔にこの事を伝え魔王の元に馳せ参じましょう」


 そう言うと私が止めるのも聞かず、黄金山羊は空へと飛び上がった。

 その迅速な行動に私と牛頭は見送るしかない。

 北の空に消えていく黄金山羊に私はついため息を吐いた。


「幾つか腑に落ちないのよね……。」


 受け入れられる事に耐性がないからか、黄金山羊が怪しく思えてしまう。

 頭を軽く左右に振って私は空を睨むのを止めた。

 今は考えるだけ無駄ね。天魔に会わないと事態は動かないのだから。


「牛頭、私は着替えるから周囲を警戒して」


 旅装束で会うと失礼に当たる相手だろう。

 こんな時のために村で買い取った上等な服に着替える事にした。

 問題は選択肢が全て男物である点。女物だとワンピースやドレスになってしまう。


「魔王、ドレス、着る?」

「似合わないからイヤよ」


 即座に断り、落ち着いた青色が好ましい男物の服を手に取った。

 袖口が小ウサギの真っ白な尻尾で縁取られている。何でも、幸運のお守りだとか。

 腰に合わせて茜色の紐で縛り、髪に常より念入りに櫛を通す。

 鏡の破片に美少女が写ったのを確認して私は牛頭の前で胸を張った。


「どうよ。男装の麗人を前にした気分は」


 微笑みかける私に目を向けず、牛頭は私の背後をただ見つめていた。

 不満を隠さずに唇を尖らせて視線を追い、振り返った私の前に黄金山羊がいた。


「惚れ惚れするほどお似合いです」

「そう言われると女として傷つくね」

「……。」


 黄金山羊の視線が泳いだ。


「魔王、かなり、意地悪」

「惚れ惚れするでしょ?」


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