五十二話 嘘つき二人
クルトが蘇った場所にはカーリンと村長が一触即発の雰囲気で睨み合っていた。
私は二人の間に着地する。
「……マオウ。裏切ったわね?」
村長から聞いたのだろう、カーリンが言った。
憤怒の色に燃えている彼女の瞳に微笑む。
「おかしな事を言うのね。私や村長はカーリンを手伝ってるのに」
彼女が何故クルトを蘇らせたのか。
殺してしまった事への罪滅ぼし、信じきれなかった事への贖罪。それが理由。
なら、
「カーリンが蘇る理由は何?」
クルトの命を当てに蘇りを期待するなんて本末転倒なのよ。
カーリンが表情を消した。
「説教かしら? すごく偉そうだわ」
「クルトに依存してるカーリンよりずっと偉いよ」
生まれてから一人で生きて、やっと出会えた理解者のクルトに依存したい気持ちは分からないでもないけどね。
「本気でクルトに謝るなら、大人しく死になよ」
それでカーリンの贖罪は終わるのだから。
歯を食いしばるあなたには悪いけど、時間がないの。
山積みの用事が片付く前に騎士団に乗り込まれると厄介なのよ。
だから手早く済ませるに限る。
「カーリンだって自分の矛盾が解っていたんでしょ。だからここに来た」
生きていて良いかをクルトに決めて貰うために。
クルトの贖罪の輪廻とカーリンの共依存の輪廻と……。
どうしようもなく不器用で内向的な二人。
肩を竦める私にカーリンが冷ややかな視線を注ぐ。
「それを理由に私を殺すのは筋違いではないかしら?」
「どうして?」
「選択権はあくまでクルトにあるわ。マオウ達に決める権利はないでしょう」
うん、その通りだね。
クルトがまともに考えられる状態なら、私もそう考えるよ。
「けど、クルトはカーリンに負い目がある。だから、彼に選択権をゆだねるのは公平性に欠くね」
だから、ここに来る前にクルトを潰してきたのよ。
合わせてお説教しても聞く耳持たないのは火を見るより明らかだもの。
「カーリン達の間違いはね。頭を下げなかったことだよ」
ただそれだけで万事うまく運んだのに、信頼の使い方を間違って依存して謝り続ける。
どこまでも不器用な二人。
断罪を続ける前に村長が私を制した。
「魔王よ。もうよい。終わりにしよう」
見栄っ張りめ。震えたその手を私の肩から退けなさい。
どいつもこいつも不器用なのよ。
馬鹿は死ななきゃ治らないって言うけど、治ってないし。
「儂が始末をつけーー」
村長がむせた。
わき腹に食い込んだ私の肘鉄に感極まったらしい。
涙を流して喜ぶとは気持ちの悪い奴。
「な、なにをする」
「魔王らしい事させなさい」
村長がカーリンを殺したら私の計画が狂ってしまう。
私が魔法陣を展開するのに合わせてカーリンが動いた。
喉を狙った軌道で迫るナイフはしゃがみ込んでかわす。
私の集中が途切れたために未完成だった魔法陣が霧散するも、すぐに魔力を集めなおして周囲の地面を火で覆う。
カーリンは軽く跳躍したと思うと土の魔力で岩の地面を空中に作り足場にした。
私は自らの退路を塞ぐだけとなった火の海を消して魔力に戻す。
その隙を狙ってカーリンが岩の槍を生み出して私へと魔力レールを敷いた。
「観念するといいわ」
打ち出される岩の槍に臆することなく私は球形魔法陣を展開する。
「お邪魔虫、ぬりかべ」
水晶で出来た透明な壁が辛うじて間に合い、岩の槍を受け止める。
唯一、防御を目的にして開発した魔法陣だから瞬時に発動できるように何度も練習した甲斐があった。
しかしやはり時間を掛けなかった分、魔法陣の完成度が悪かったようで程なくして水晶の壁は瓦解した。
「村長は寝てなよ」
起き上がりかけた村長を足蹴にしつつカーリンを見据える。
彼女は困惑顔で村長を一瞥した。
「マオウ、あなたどっちの味方……?」
「私の味方よ」
胸を張って答える。
村長が戦うと困るの。だから参加させないのよ。
私は球形魔法陣を展開する。
今回、一番の功労者の登場です。拍手でお迎え下さい。
「殺し屋黒子、だいだらぼっち」
五メートルの真っ黒な巨人が姿を見せてもカーリンは驚かなかった。
ただ無言で風の魔力を操って周囲の木から枝を落として集めただけだ。
「流石はカーリン。対応が早いね」
「白々しい。こちらの策を見破っておいて言うことではないわ」
そう言いつつも嫌みな笑みを浮かべたカーリンは枝を束ねて強度を増すとだいだらぼっちの脚を薙払った。
魔法の水で出来たこの巨人には打撃の効果がない。
しかし、巨人を構成する水を私の掌握範囲からはじき出せば巨人が縮むのだ。
私自身は巨人のバランスを取るために魔力を操る必要があるので一時的に動けなくなる。
殆どだるま落としだ。
カーリンは枝のハンマーで巨人の脚を立て続けに殴りつける。
だいだらぼっちが三メートル程度に縮むまで時間はかからなかった。
カーリンの振るう枝ハンマーの射程に入った瞬間、私は球形魔法陣を展開する。
「何度やっても意味ないわ!」
しなるハンマーが振り下ろされるより早く私の球形魔法陣が発動する。
「殺し屋黒子、一寸法師バージョン!」
だいだらぼっちが瞬く間に掻き消えて、あちこちで水の小人が立ち上がる。
カーリンがすぐさま枝ハンマーを分解しバラした枝を風魔法で操る。
小人達が次々と薙払われて水滴に変わっていく中、私は風の魔力を操る。
「瓦礫ガトリング」
枝を使えるのはカーリンだけじゃないのよ。
私の声に反応した彼女が対応する直前にその胸を枝が貫いた。
即死だろう。
彼女が倒れるのと同時に私も膝を突く。
気が狂いそうな痛みで力の入れ方を忘れそうだ。
カーリンを殺した瞬間に強まった痛み。
まだ先があるのよブーイングは全部終わった後にしろ早とちりの神様め。
「確かに死んでおるな」
村長がカーリンを見下ろして言った。
当たり前だろ。早く続きをしろトンマ。
「では、カーリンを蘇らせる。魔王は周囲を警戒してくれ」
「手早く済ませなさいよ」
私は痛みを堪えながら立ち上がった。




