三十七話 脅かし
二人いる。
怒鳴り声をあげている筋肉質の男と周囲を警戒している背の高い男。
どちらも弓を持っているけど魔力を操る様子はない。
おそらく魔法を使えないのだろう。
今の私の最大範囲十メートルの魔力を掌握し、集める。
男達が魔力の動きを追って走ってくる。
「牛頭、出るよ」
幹を軽く叩いて促す。
私は隠れて魔力を操る役割、牛頭は男達を直接脅かす係だ。
「魔物!?」
「何で居るんだよ!」
唐突に現れた魔物に男達が慌てる。
筋肉質の男が弓に矢をつがえて引き絞る。
牛頭の後ろに隠れている私に気付いていないのを確認し、火魔法で弓を狙撃する。
一瞬で魔力レールが敷きピンポン球サイズの火球で弓を撃ち抜く。
筋肉質の男は燃える弓を取り落とし、怯んだ。
後一押しね。
牛頭の幹を三度小突く。
「人間、邪魔」
いい子ね。打ち合わせ通りの台詞よ。
牛頭がゆっくりと進む。
進行方向にいる男達は後退る。
風の魔力で男達を包み込む素振りだけで彼らは回れ右して逃げ出した。
「……妙に呆気ないね」
知性体が珍しいのも関係しているだろうけど、男達は武器になる物を弓しか持っていなかった。大きなナイフを腰に下げてはいたけど、人を仕留めるにしてはやはり軽装に思える。
「カーリンは何で逃げたんだろう」
彼女は掌握が下手だったけど真っ向から戦って勝てない相手には見えなかった。
あの男達は賞金稼ぎではなく狩りに来た村人と見るのが妥当に思える。
カーリンと村の関係に何かあるのは間違いない、か。
「牛頭、川に戻るよ」
どうあっても村を訪ねる必要ができた。
諍いは双方の意見を聞いて仲裁しないと禍根が残る。
問題はタイミングね。
川への道すがら、分からない点を纏めていく。
カーリンとクルト及び村との関係、蘇り。
細々としたものを除くと少ないけれど、カーリンと村のどちらからも話を聞かないといけないのが頭の痛いところ。
あれこれと考えている時、道の先をウサギが横切った。
「敷き布団発見!」
ついでにお夕飯。
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ウサギを牛頭の枝に提げて川に帰る。
好きな曲を口ずさみながらナイフを取り出し、熱湯消毒しているとカーリン達が忍び寄って来た。
私の他に人影がないのを確認しているらしいので無視する。
「……また助けられたわ」
また?
あぁ、牛頭を止めた時のあれね。
「簡単に追い払えたよ。クルトが原因みたいだけど、何したの?」
鎌掛けですよ。
男達は「出てこい」とか「殺してやる」なんて女殺しなラブコールしか口にしなかった。
「それはおかしいわ。原因は私のはず」
「なら何でクルトが追われてたのよ。そうそう、夕食は取れたてウサギだよ」
訝るカーリンに苦笑してウサギを地面におろす。
さらりと話題を変えたのは深く考えていない事と追及しない意思表示。
警戒心は呼び起こしたものの、助けられたので強くは出れないらしい。
意外と律儀な娘ね。
感心しつつもウサギを前に私は手を止める。
ウサギを捌くところをクルトに見せても良いのだろうか。
一歳児が見るとトラウマになりかねない。
まぁいいか。私の知ったことじゃない。
そう思いつつも岩の裏を作業場に定める私は配慮の出来るいい子よね。
「一人で子育てと監視は大変でしょ?」
クルトの手を引いて岩の反対側に座るカーリンに軽い調子で話しかける。
諸々の状況から推察すると、カーリンはクルトと二人暮らし。
私と食事をしたのも、今ここに居るのも、私を監視しているだけ。
直接的な脅威があり、見慣れない者が森にいる。誰だって敵と通じていると疑うだろう。
魔王と聞いて名前を勘違いしたのは魔王の存在そのものを知らないからだ。
村とは完全に没交渉。故の世間知らず。
「……連中を追い払ったそうだけれど、どうやったのかしら?」
開き直ったよ。
「牛頭の姿を見せて、物陰から弓を壊したら逃げて行ったよ」
証拠はないけどね、と付け足す。
カーリンは僅かな沈黙の後で岩の上から顔を覗かせた。
赤い瞳は細められ、彼女が手で作った陰の中でも物騒に光った。
「信用していいのかしら?」
「カーリンが決めることだよ」