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嘘つき魔王  作者: 氷純
オイゲンと白い池
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二十七話 白い粉

「処刑場……。」


 骨猫が去った森の奥を見つめながら私はヒントを繰り返した。

 鏡と対になる魔法がかかっている魔法の池は処刑場の跡地。

 対になる魔法というくらいだから、使用者が殺意を向ける相手が映るのだろうか。

 何のために?


「執行人の選別、とか」


 自問自答するけれど、納得がいかなかった。

 オイゲンが池の魔法の発動を待つ意味が分からない。


「あの怠け神が出てきて教えてくれれば苦労もないのに」


 人に何かをさせたいなら頭を下げて頼みなさいよ。

 最低限の礼儀や説明もないなんて、職務怠慢もいいところだ。

 まったく、あのヘリウム頭の神様め。頭が軽すぎて下げる事すら出来ないの? だから天上にプカプカ浮かぶ羽目になるんだよ。

 盛大にため息を吐いて、木の根本に腰を下ろす。


「鏡と対になる魔法ね」


 いくつか思いつくけど、あり得そうなものとなると限られる。

 池の周りの白い粉と関係する魔法となると更に分からない。


「……あれ?」


 考えてみれば白い粉が魔法に必要だ、なんて思いこみ以外の何物でもない。

 処刑場にありそうな白い物。

 ……いやいや、まさか。

 明日にでも白い粉を観察しよう。

 予定を決めながらも、頭の片隅にある想像が浮上してきて嫌な気分になった。

 想像が当たっていたら、流石に触りたくないな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「姫さん、まだいたのか」

「まだ発動してなかったんだ」


 横目で睨んでくるオイゲンを軽くあしらって白い樹皮を観察する。

 昨日、私が触って粉を落とした木だ。白い粉は一切浮かんでいない。

 仮説が一つ立証された。

 この木に白い粉を分泌する能力は恐らくない。

 当初は樹液の類だと思っていたこれは地面から風などで巻き上げられて付いたのだろう。

 樹皮をよく見ると毛羽立っていて粉を簡単に絡めとる。

 とすれば、白い粉の正体が気になるところだけど。

 オイゲンに向き直って声をかける。

 あらら、迷惑そうな顔を作っちゃって……。

 とても観れたものじゃない下手な演技。

 これから、本当に迷惑な事するつもりだから先取り対応かな。

 私は無邪気で無垢な女の子を装って口を開く。

 我ながらギャップが酷い。


「神殿の地下室にあった鏡の魔法、あれ具体的には何なの?」


 何も知らない風を装って問いかける。

 オイゲンは迷惑そうな顔を崩さない。私は彼の顔を正面から見つめる。


「離れた知り合いの今が映る鏡だ」

「どんな知り合い?」


 本人から直接きいてしまえば頭を捻らなくてもいいでしょ作戦、始動。

 だって、オイゲンと若い男の関係なんて当人に聞くしかないもの。

 オイゲンが一瞬だけ迷う素振りを見せた。


「……映るのは親しい相手だ」


 やっぱり、嘘を吐くのね。


「オイゲン。人間ってね、嘘を吐くと鼻が膨らむのよ。知ってた?」


 呆れましたと全身で表現し、オイゲンを馬鹿にするように見る。

 彼の目は一瞬、自らの鼻の頭を見つめたと思うとすぐ池へと逸らされた。続いて彼は詰まっているわけでもない鼻で大きく深呼吸を一回。

 なんとも分かりやすい。こんな単純な鎌掛けに動揺しすぎよ。


「あの若い男ってオイゲンの息子?」


 彼が落ち着きを取り戻す前に決着をつけたいので、単刀直入に訊ねる。

 オイゲンが沈黙した。


「なんだ、息子じゃないのね」


 軽く見開かれた彼の目に驚きが透けている。

 黙秘するならポーカーフェイスを貫かなきゃ意味ないよ。

 この調子で情報収集を続けよう。嫌がらせも兼ねて。

 神もこれが必要な手順だと分かっているらしく、痛みはない。


「どうせ、鏡の魔法は使用者に殺意を向けている相手を映すもので、あの若い男はオイゲンと親しかった人の息子ってところでしょう?」


 鏡については確認済み、若い男はオイゲンと年代が違うので友人の息子と当たりを付けた。

 彼が拳を握り込んでいるのが見える。少し妙だ。動揺を抑える仕草じゃない。

 あれは怒りとか悔しさとか、外に向かいがちな感情を閉じこめる仕草に思える。

 図星を指されて苛立つほど隠したい事だったのか。

 それにしても息子じゃないなら後腐れ無く殺してしまえばいいのに。どこまで甘ちゃんなんだろ。


「この白い粉って骨みたいだよね?」


 地面をつま先で軽く蹴る。

 オイゲンの表情を見て確信した。


「骨、なんだね……?」


 オイゲンが渋々うなづいた。


「姫さんの言うとおり、全部この場所で亡くなった人の骨だ。手荒に扱うな」


 オイゲンが声を低くして言った。

 ……ここを作った人は悪趣味だね。私でも引くよ。

 処刑した人間の骨を砕き絨毯のように敷き詰める。死んで尚、罪人に踏まれる罰を受け続けるように。ここはそういう場所なのだ。

 発想をなぞれる私もきっと歪んでいる。

 さて、彼はこんな場所で何をするつもりか。


「この池の魔法って、何?」


 正直なところ知りたくもない。でも、知らないと解決しない。


「聞いたら、もう構わないでくれるか?」

「発動するのを見たかったけど時間がかかりそうだから、この際それでいいよ」


 嘘は潤滑油だね。

 オイゲンは頭の後ろを掻きながら言った。


「この場所で死んだ人間を悼む者が映るのさ」

「悼む者?」


 殺意とか関係ないの?

 骨猫が怖いとまで言った魔法。むしろ死者の心の救済にもなりそうなのに、処刑場だったのと矛盾さえ感じる。

 意外に思った私はオイゲンが続けた言葉に息を飲んだ。


「ここは元処刑場でな、罪人の死を悼む者も処刑されたんだ」


 ……心の救済が目的じゃない。逆に突き落とすための魔法。

 池に映れば家族や友人まで処刑される。しかし、映らないのは悼む気持ちがないのと同じ。

 えげつないやり方。


「オイゲンはここで殺されるつもり?」


 発動条件は人の死。ならば、ここでこの男が自殺か他殺かで死ぬしかない。

 一晩が経っても生きているのはつまり、自殺しなかったという事。

 オイゲンは「察しが良いな」と苦笑いしながら、私に向けて手を振った。


「じゃあな。止めないでくれよ」


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