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嘘つき魔王  作者: 氷純
オイゲンと白い池
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二十六話 骨猫の証言

「何を企んでるの?」


 いきなり協力を申し出た骨猫に問いかける。

 悪趣味に改造されたスフィンクスよろしく地面に腹ばいになった骨猫はクキャキャと妙な笑い声を上げた。


「疑われるたぁ、悲しいなぁ。好意ってのは素直に受け入れるもんだぜ?」

「好意というのはお金と一緒なのよ。買いたい物があるから押しつけてでも払うの」

「金と一緒、か」


 私の切り返しを興味深そうに反芻する骨猫。


「人間らしい台詞だな。それも質が悪いタイプの人間だ」


 それは誰を評しての言葉なのかな?

 魔物のくせに。鏡を向けてあげようか。


「企みって程のもんじゃねぇよ。端的に言ってお前に興味があんだ。人間じゃない、魔物でもなさそうだ。お前は何者だ?」


 骨猫の尻尾がユラユラと左右に振れている。

 魔力を集めている素振りはないし、何か武器があるようにも見えない。

 どうやら、本当に話をしたいだけらしい。

 警戒は解かずに距離を調整して戦闘に備えつつ、私は骨猫の問いに答える。


「世間様が言うところの魔王、らしいよ」


 自嘲的な雰囲気の混じる私の自己紹介に骨猫がしばしの間呆けた。

 そして、徐々にその口が開かれたと思うと耳障りな笑い声をあがった。


「なんだそりゃ、地下室じゃ殺しちまうとこだったんだぜ? 俺なんかにやられる魔王ってのはショボ過ぎんだろ?」


 私に訊かれたって知らないよ。

 どうせ、私が魔王でないと困る連中がいるのだろう。

 騎士団とかベリンダそれに神。

 みんなが私を思ってくれるなんて小躍りしちゃうね。


「自分でも理解できないよ。けど、今の私は世間様々が言うところの魔王なの」


 そりゃあ、一方的に与えられたアイデンティティだけどね。

 骨猫が面白がるように私を見ている。

 それに対して愛想笑いを向けて私は口を開く。


「私もいくつか訊きたいことがあるの」

「教えねえよ」


 このグロテスク猫もどき……!

 聞くだけ聞いて、やっぱりとんずらする気か!!

 身を翻した骨猫の逃げ道を土魔法で塞ぐ。


「クキャキャ。反応早いな。予想してたろ?」


 骨猫が笑いを含んだ声で言う。

 動揺していない所から見て、私が予想している事もお見通しだったのだろう。


「もう一度、言うね。いくつか訊きたいことがあるの」

「答えねえって言ってんだろ」


 骨猫が憎たらしい笑みを返してくる。私は滅多に見せない最高の愛想笑いで迎え撃った。

 そのまま睨み合いを続けると、骨猫が堪えきれないといった風に吹き出し豪快に笑いだした。

 乙女の笑顔を嘲笑うとは失礼な。


「魔物に笑いかけるなんざ魔王らしいじゃねえか。……嘘吐いてもよけりゃあ答えてやるよ」


 妥協点としては相応か。

 あまりしつこくすると骨猫がへそを曲げるだろうから。


「この近くにある池にかかってる魔法について知りたい」


 白い池の方向を指さす。

 骨猫は再び地面に寝ころんで、そんな事か、と呟いた。

 透明な膜に覆われた尻尾の骨が器用に池の方に曲がった。


「あの池の魔法を知った時は初めて人間が怖くなったな」


 夜空を見上げた猫が懐かしむように言う。

 感想はいらないから情報を寄越せ。

 睨む私を焦らすつもりなのか、骨猫が鏡の破片と映し出されている騎士団に視線を移す。


「これ地下室の鏡だろ? 随分と大勢から殺意を向けられたもんだな」

「魔王の特権らしくてね」


 苦笑すると「ご愁傷様」なんて不快な笑い混じりに返された。

 それにしても、鏡に映るのは使用者に殺意を抱く者か。これは嘘ではなさそうだ。


「池の魔法は面白いぜ。鏡と対になってんだ。お、今のは美人だな」


 骨猫が映像のベリンダと並んでいる、大鎌を持った女に野卑な歓声を上げる。

 あんな目立つ女、騎士団にいただろうか……。

 映像を見る限りベリンダと仲が良いみたいだけど。


「それで?」


 大鎌の女から強面の騎士に映像が切り替わったのを見計らって、骨猫に話の先を促す。

 というか、この骨猫は何で人間の女に色めき立った男みたいな視線を向けてるのよ。

 骨猫が映像に興味を無くして私に向き直る。


「池の水面はその鏡と同じ働きをする。映すのは」


 そこで骨猫は言葉を区切り、クキャキャと不協和音を響かせる。


「……映すのは?」

「説明は終わりだ。あばよ、お姫様」


 そこで止めるのか。

 食い下がったとしても、そんな私を笑い物にするだけだろう。


「最後まで説明をありがとう」


 皮肉を込めた感謝を口にして見送る。

 骨猫はクキャキャと笑いながら森の中へと消えていく。


「そうだ。ヒントをやるよ」


 説明会はお開きだと思っていた私は唐突に振り返った骨猫に怪訝な視線を向ける。

 そんな私の気を引くように十分な間を挟んだ後、骨猫はお気に入りの宝物を自慢する口調で言った。


「あの池は処刑場なんだよ」


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