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【短編小説】ネック内線ハンギング電話

掲載日:2025/12/28

 薄暗い倉庫の内線電話が鳴りっぱなしになっている。

 おれ以外には誰もいないらしい。

 そして鳴り続ける電話は、おれの部署では無い。そして鳴り続ける内線電話の担当はしばらく姿を見ていない。

 自宅ですら聞かなくなった固定電話の呼び出し音が倉庫に響く。


 電話を鳴らし続ける方もどうかと思う。

 しかし、いわるゆサンクコストバイアスとでも言うのか、またはマーフィーの法則になるのか、電話を切った瞬間に相手が出ると言うことを考えると、もう切れないのだろう。


 それはそれで良いとして、おれは作業の合間で手隙である。

 全く別部署、別の担当であるおれが代わりに内線に応対したところで事態が1ミリたりとも進まないのは、この椅子から立ち上がらずともわかる。

 つまり、おれの出る幕では無い。

 誰か出てくれと、電話をしている側よりおれの方が願って止まないのも確かだ。


 内線に出るのはやぶさかでは無い。

 何も椅子から立ち上がる労力が惜しい訳でも無い。

 立ち上がって、電話に出る。

「誰もいませんよ、担当が戻ったら折り返しますか?」

 それだけだ。

 だがそれをしてまで、既に分かりきっている事を相手に伝える必要があるのか、それが分からない。

 そもそも出るにあたってどの様な態度を取るべきかが分からない。

 まず相手より先に怒りを露発させて然るべきなのだろうが、その加減と言うのも難しい。


 おれは、何をしているのか。

 目の前に山と積まれた包装紙と空箱を目の前にしてしばし考える。

 斜め包みの練習をしていたが飽きてしまった。

 何回やっても上手くできない。

 そのフラストレーションを誰かにぶつけたいのは確かだ。

 繰り返し折り曲げられた包装紙はちりめん織のようになっていて、こうなると流石にもう商品には使えない。

 おれは会社から時給を貰いつつ会社に利益を出すどころか損害を与えている。

 その補填は他の誰かが作った売り上げだ。


 他人にぶら下がって生きる、と言う事実。


 電話は鳴り止まない。

 おれは電話を睨み、八つ当たりとして電話に出て相手が何か言うより速く「誰もいねぇよ!」と絶叫してガチャ切りするのもアリだと考えた。

 目の前に或る包装紙がゆっくりと折り目を緩めて伸びていく。

 縮めたストローが水を垂らされて伸びるみたいだ。


 おれはこれから伸びるのか?

 それともまだ縮むのか?

 人生はクソだ。

 むかし勤めたコンビニでソフトクリームの練習を繰り返した事を思い出す。

 ソフトコーンの上に鎮座する曲がったソフトクリームを、店長のババアはソフトクリームマシンに戻していた。

 個体から液体に還るソフトクリーム。

 おれは繰り返し練習する。

 おれは何ひとつ上手くやれない。


 おれは何だか分からなくなり包装紙で首を括った。

 内線電話は途切れる事なく鳴り続けている。

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