第8話 誕生日
十三年前、香織は四歳で両親を亡くし、その両親の親友だったという櫻井家に引き取られた。
櫻井家は四名家に数えられる国内有数の名門家。当主の眞理子も、その一人娘の由梨乃も、代々名家御用達の羽岡学園に通っており、英才教育も受けている。京一は一般生として高等部より学園に通っていた優秀な学生だった。
居候の身である香織は面倒な存在であるはずなのに、櫻井夫妻は由梨乃と分け隔てなく育ててくれ、由梨乃と同じく羽岡学園に通わせ、英才教育も受けさせてくれた。
幼いながらに、自分は恵まれた環境におり、そしてその金額も相当だろうと思っていた。ある日どうしても気になって眞理子に尋ねた。すると、お金は両親が残してくれたものから使っているから心配するな、子どもに教育を受けさえるのは保護者の務めである、あなたが大人になったら自分の子だろうが他人の子だろうが恩返しをすれば良い、と言われ、納得するしかなかった。
新年度が始まって間もなくの4月13日、香織は誕生日を迎えた。
「誕生日おめでとう!」
学校に行くと、いつもの友人達がお祝いをしてくれた。
「これは私達からのプレゼント!」
小さな箱の包みが入った紙袋を渡され、香織は珍しくにっこり笑って受け取った。
「ありがとう。」
あまり感情的にならず、表情を表に出さない彼女の様子に、千佳、花音、はるひ、そして一緒に登校してきた由梨乃も微笑んだ。由梨乃も三人と共に用意したもののようだ。
「開けて見て!」
花音が言うと、香織は包みを綺麗に剥がして箱を開けた。
なかには小さな桜のモチーフが付いたネックレスが入っていた。
「香織は桜が好きでしょ?」
「その黒髪によく映えるしね。」
「季節に関係なく付けられるデザインを選んだから良いかなと思って。」
香織は桜が好きである。母が好きだったという。
両親を目の前で殺されたショックで、事件以前の記憶を失った香織には、両親の記憶がほとんどない。そんな中でうろ覚えで残っている数少ない記憶の一つが、母と桜だった。
自分が誕生日を迎える頃は、既に桜が満開の時期は過ぎているが、残った花弁が風に舞う様子は、まるで自分を祝ってくれているかのように感じていた。
母は髪に付いた花弁を優しく取ってくれ、母の長く綺麗な髪に付いた花弁は父が取っていた。
イメージ写真
「こんな高価なもの…本当にありがとう。大切にするね」
千佳が「そんなに高いものじゃないし、皆で割り勘したから」と付け加えていた。
名門学園に通う四人はそれなりに裕福で名の知れた家。しかし家の名を鼻にかけず、金銭感覚もそれなりに標準なメンバーだからこそ、良い関係が築けるのかもしれない。
毎年友人達で誕生日を祝い、何かしらプレゼントを贈ったりする。それは特別高価なものではなく、高校生のお小遣いで買える物だ。どれも大切にしている。
こんな友人達に巡り合えたことは、香織にとってはかけがえのないものだった。
「さあ、もうすぐ先生来ちゃうから片付けて。今度遊びに行く時にでも着けて来てね。」
香織は丁寧にプレゼントを包み直すと、カバンにそっと仕舞った。
家に帰ると、櫻井家ではいつもより豪華な食事が並んでいた。朝にも京一や眞理子から「おめでとう」と香織の誕生日を祝ってくれていたが、本番は帰宅後だった。
仕事を早々に終えて帰宅した京一と眞理子が香織の為に準備していたのだ。学校から帰宅した二人は制服から着替えると、香織はそのまま部屋で待っているように由梨乃に言われ、彼女は両親と一緒に誕生日祝いの準備をしにリビングに向かった。
小さい頃ならまだしも、高校生になっても赤の他人である自分の誕生日を祝ってくれる櫻井家には感謝しきれない。社会人になったらどう返そうかと今から悩んでいる。
今年はどんなお祝いだろうかと楽しみにしながら、学校で友人達からもらった桜のネックレスを付けた。
しばらくして、香織は準備が出来たと呼びに来た由梨乃と共に、リビングへ向かった。




