7話
「おーい、葉琉!」
グラウンドから戻ってきた隼が、タオルで髪を拭きながら声をかけてくる。
僕はベンチに座って、ふたりの姿をぼんやりと見ていた。
詩乃ちゃんは体育倉庫の横で待っていて、隼が近づくと自然と並ぶ。
どこにでもある、普通の放課後の光景。
──なのに、胸がざわつく。
「葉琉、帰るぞー」
「うん、行こっか」
そのまま三人で並んで歩き出す。
でも、何となく言葉が続かなくて、沈黙が重なった。
だから、僕は笑うことにした。
「……ねえ、ふたりって、もしかしていい感じ?」
詩乃ちゃんがちょっと驚いた顔をする。
隼は何も言わずに前を向いたまま。
「いやいや、変な意味じゃなくてさ! もしそうなら、ちゃんと言ってよね? 応援するし」
自分で言って、どこか遠くの音みたいに聞こえた。
僕の声なのに、僕じゃないみたいだった。
「……ありがと」
詩乃ちゃんがそう言った。
その声に、ほんの少しの“本音”が混じっていた気がして、
また、笑うしかなかった。
──
帰り道、夕陽に染まる道路を歩きながら、
僕はふたりの少し前を歩いた。
見えないふり、気づかないふり、
そして、祝福するふり。
そうしていれば、きっと大丈夫だと思った。
自分の気持ちなんて、なかったことにできるって思ってた。
でも、胸の奥に刺さった小さなトゲは、
だんだんと、呼吸をするたびに痛みを増していた。