5話
その日、帰り道はふたりきりだった。
隼は委員会か何かで残っていて、
気づけば僕と詩乃ちゃんだけが並んで歩いていた。
「……風、強いね」
そう言って詩乃ちゃんが髪を押さえる。
その仕草がやけに綺麗で、僕は一瞬、言葉に詰まった。
「……うん」
ただそれだけしか返せなかった。
本当は、もっと他のことを言いたかったのに。
「ねえ、葉琉ってさ」
不意に詩乃ちゃんが立ち止まった。
少し前を向いたまま、小さな声で続ける。
「……最近、変わった?」
「え?」
「なんか……わかんないけど。少しだけ、よそよそしいというか……」
「そんなこと、ないよ」
即答してから、少しだけ後悔した。
ほんとは、自分が一番その“よそよそしさ”に気づいていたから。
「……そっか。なら、いいけど」
詩乃ちゃんはそれ以上何も言わなかった。
でも、その横顔はどこか寂しそうで、
僕はその空気をうまくつかめないまま、何も言えなかった。
風が、ふたりの間を吹き抜ける。
──本当は聞きたかった。
「隼のこと、どう思ってるの?」
でも、そんなことを聞いたら、
今の関係すら壊れてしまう気がして、何も言えなかった。
僕はただ、笑ってごまかすことしかできないままだった。