4話
教室の窓際で、昼休みの光がぼんやりと差し込んでいた。
僕はいつものように、後ろの席の詩乃ちゃんに話しかけて、
何気ない話題でふたりで笑っていた。
そのときだった。
前の方から近づいてきた隼が、詩乃ちゃんの方をちらりと見た。
その視線に、詩乃ちゃんも自然に気づいたみたいで──
ほんの一瞬、ふたりの視線が交わった。
何でもないようなその瞬間が、
僕の中では、やけに長く感じられた。
「……何、見てんだよ」
詩乃ちゃんが、ちょっとだけ口角を上げてそう言った。
隼はそれに軽く肩をすくめて、何も言わずに自分の席へ戻っていく。
まるで、何もなかったかのように。
でも、僕にはわかってしまった。
あれは、たまたま目が合ったんじゃない。
見ていた。
見られていた。
お互いに。
──そして、僕はその輪の“外側”にいた。
「どうしたの?」
不意に詩乃ちゃんが僕の顔を覗き込む。
慌てて笑って、「いや、なんでも」と首を振った。
ほんとは、ちょっとだけ苦しかった。
だけど、こんなことでざらつく自分が、
小さくて情けない気がして、笑うしかなかった。
教室の中には、誰かの笑い声と机を引く音。
日常の喧騒が、何も変わっていないような顔で広がっていた。
──でも、僕の世界だけが、少しずつ、音を失っていく。