3話
放課後、昇降口を出ると、少し冷たい風が吹いていた。
春とはいえ、まだ制服のブレザーの内側に、風が入り込んでくるとぞくりとする。
「……行こっか」
隣でそう言ったのは詩乃ちゃんだった。
今日は三人で帰るつもりだったのに、隼は部活の顔出しがあるとかで、先に体育館の方へ行ってしまった。
「……うん」
歩き出すと、校門の近くに咲いていた桜が風に揺れて、
舞い上がった花びらが、ふたりの間をすっと通り過ぎていった。
「ねえ、最近さ、隼と何か話した?」
「え?」
「なんか、ちょっと雰囲気違う気がして……」
僕の問いかけに、詩乃ちゃんは一瞬だけ足を止めた。
でも、すぐにまた歩き出して、小さく首を横に振る。
「別に。変わらないよ、あいつは」
そう言ったけれど、その声には、どこか引っかかるような間があった。
僕はその間に気づいてしまった。
──やっぱり、変わったのは“僕”のほうじゃない。
変わってしまったふたりの距離に、気づいてしまった“僕”だけが、
取り残されていく。
「……そっか」
そう言ったきり、僕はそれ以上何も聞けなかった。
聞いたところで、答えなんて、もうわかってる気がしてた。
それでも隣で歩く詩乃ちゃんの横顔は、
ほんの少しだけ、春の光に滲んで見えた。