表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

32話

式が始まる前の体育館は、

どこかいつもと違う匂いがした。


壇上の椅子、並べられた花、

壇前のマイクにかけられた白い布。


みんなが制服をきっちり着て、

「最後の日」の顔をして並んでいる。


僕は列の中にいて、

何を考えてるのか、自分でもよくわからなかった。


ただ、静かに始まりを待っていた。

──


卒業証書を受け取って教室に戻ると、

色紙と写真と笑い声があふれていた。


「ちょっと!変な写真撮るなってー!」


「えー?ちゃんと残してあげてるんだよ?」


そんな声があちこちで飛び交って、

誰もが「終わり」を惜しむように、

でもちゃんと笑っていた。


教室の隅で詩乃と隼が並んで立っていた。


「詩乃、リボン曲がってる」


「えっ、どこ?」


「ほら、ここ。……ったく、今日は主役なんだから、しゃきっとしろ」


「うっさいな……でも、ありがと」


そんなふたりのやりとりを見て、

僕は自然に近づいた。


「はいはい、おふたりさん、ラブラブでなにより」


「うわ、なんだよ急に。タイミング良すぎだろ」


「いや、そろそろツッコんどかないと卒業し損ねるかなって」


詩乃がふっと笑った。


「ばれちゃったか」


「いや、隠せてなかったし」


「お前もな。顔に出すぎ」


そんな会話があって、

それでも3人で並んで笑っていられた。


そこにはもう、あの頃の“ぎこちなさ”はなかった。


──


帰り際。

夕焼けに照らされた校舎の階段で、

僕はひとり、深呼吸をした。


ここで過ごした時間。

笑ったことも、悩んだことも、

全部がちゃんと、自分の一部になってる気がした。


──


教室を出て、階段を下りた先の昇降口で、

南雲がこちらに気づいて、ぺこりと頭を下げた。


「卒業、おめでとうございます」


「ありがとう。……って、やっぱり来てたんだな」


「はい。先輩の晴れ姿、ちょっとだけ見たくて」


「……見たか?」


「ちゃんと見ました。ちゃんと、“かっこよかった”ですよ」


「……そうか」


それだけの会話だったのに、

胸の奥がふっと、あたたかくなった。


「南雲は、まだここに残るんだな」


「はい。……でも、ここにいた先輩のこと、

たぶんずっと忘れないと思います」


僕は少し照れくさくなって、

靴を履きながら返す。


「……忘れられるようなこと、してないけどな」


「そうでもないですよ?」


そう言って笑ったあと、彼女は少しだけ間を置いて、

まっすぐに僕を見て言った。


「……先輩、海外でも頑張ってください」


その言葉が、まっすぐ胸に届いた。


「……おう。そっちも、ちゃんと進んでいけよ」


「もちろん」


窓の外はもう夕方で、

制服の袖口に、風がやさしく触れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ