表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/34

28話

冬休みが始まって、

毎日がすこしだけ、静かになった。


朝はアラームが鳴らず、

昼になってやっとカーテンを開けるような生活。


スマホの通知も減って、

会話のほとんどは家族か店員だけ。


……こんなに“誰とも話さない日”があるなんて、

ついこの前までは思いもしなかった。



ある日、ひとりで街へ出た。

用事もなく、ただなんとなく歩いていた。


本屋をふらついて、帰り道の交差点。


信号待ちの向こうで、見覚えのある横顔が目に入った。


……南雲、だった。


気づいたのか、向こうから駆け寄ってくる。


「先輩!」


「……あ、びっくりした。こんなとこで会う?」


「ほんとですよ。まさかすぎて、ちょっとテンション上がりました」


彼女はマフラーに顔を埋めながら、少し照れたように笑った。



ちょっとだけ話そうか、と近くのベンチに並ぶ。


「冬休み、どっか行く予定とかあるんですか?」


「いや、特に。ずっと寝てる」


「えー、もったいない。

でもちょっと、わかるかも……なんか、気が抜けちゃって」


「……うん」


その「気が抜けた」って言葉が、やけに胸に響いた。


たぶん、僕もずっと張り詰めてたのかもしれない。



「先輩、なんか元気ないですね?」


「え、そう見える?」


「はい。……なんとなく」


僕は、笑ってごまかすしかなかった。


でも不思議と、そのまなざしが心に沁みて、

少しだけ、楽になった気がした。


南雲が飲み物を手の中で転がしながら、ふっと言った。


「……なんか、先輩って、いつも誰かといるイメージだったから」


「……そう?」


「はい。クラスでも中心にいるし、

でもなんか……ちょっとだけ寂しそうにも見える時あって」


「……へぇ、鋭いな」


笑いながら、視線を前に向ける。


冬の夕方。少しずつ空が色を落としはじめていた。


「……俺、昔からの幼なじみがふたりいてさ」


「……ふたり?」


「うん。男ひとり、女ひとり。

気づいたらいつも3人でいて、

気づいたら、いつの間にか距離ができてた」


「……そうなんですね」


「うん。別にケンカしたとか、何かあったとかじゃない。

でも……近かったからこそ、うまく言えないことって、あるじゃん」


「……あります。たぶん、すごく」


南雲は、それ以上何も聞かなかった。

ただ、静かにうなずいてくれたその仕草が、なんだか少しだけ、沁みた。


「そういえば……」


隣でベンチに座っていた南雲が、

飲み物をくるくる回しながらふと口を開いた。


「先輩って、進路……どこ行くんですか?」


「ん? 一応、海外」


「えっ、海外……すご」


「いや、全然すごくないよ。

むしろ“逃げ”に近いかもしれない」


「逃げ?」


「……うん。

なんか、いろいろ置いていくような気がしてさ」


南雲は少しだけうなずいた。


「でも、それでも行くって決めたんですよね?」


「……まあ、そうだね」


沈黙。

でも、その静けさは、どこかやわらかくて。

僕は、なんとなく続きを話したくなっていた。


──


「……ずっと想ってた人がいてさ」


僕は、ぬるくなったカップを両手で包みながら、ぽつりと口を開いた。


「いつからそうだったのかは、正直よく覚えてないんだけど……

たぶん、ずっと前から、どこかでその人のことを目で追ってた」


「うん」


「でも、その人が見てたのは、俺じゃなくて……べつの誰かだったんだよね」


南雲は何も言わず、ただ視線を僕に向けてくれていた。


「それに気づいてたくせに、

なんでもないフリして、ずっとそばにいて……

言葉にできなかったまま、気づいたら並んで歩けなくなってた」


「……」


「それが寂しいのか、悔しいのか、

よくわかんないまま、今も引きずってる気がする」


カップの底を見つめたまま、僕は続ける。


「でも、そういうの全部ふくめて、

俺、たぶん――ふたりのこと、応援したいって思ってるんだと思う」


「応援……?」


「うん。

ちょっと、時間はかかったけど。

今なら、ちゃんとその背中、見送れる気がする」


南雲は、そっと微笑んだ。


「……それって、すごくやさしいですね」


「いや、ただの言い訳かもしれない」


「それでも、誰かの幸せを願えるって、

本当にその人たちのこと、大事にしてたってことじゃないですか?」


その言葉が、胸の奥で静かに灯るようだった。


その返事が、そっと背中を押されたような気がして、少しだけ、目を伏せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ