26話
「はい、葉琉アウトー!」
教室の後ろで誰かが叫んだ。
どうやら、じゃんけんで負けたら買い出しに行くルールらしい。
「いや待って、まだ手出してないって!不戦敗とか聞いてない!」
僕が抗議すると、周りから笑い声があがる。
「出してないのが悪い!」
「ほらほらムードメーカーはコンビニへGO!」
冗談半分の押し問答。
でも、それがやけに楽しくて、つい笑ってしまう。
そんな時間が、ずっと続く気がしてた。
……いや、そう思いたかっただけかもしれない。
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「一ノ瀬、お前、進路希望票……出すやつ、最終確認よろしくな」
ホームルームのあと、担任にそう声をかけられた。
「来週辺りまでに進路の確認しとけよ。特に、お前は遠い所行く予定だろう。早めに出してくれると助かる」
「……はい」
プリントの束を受け取った手が、少しだけ重たく感じた。
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昼休み。
プリントを見つめている僕に、クラスの誰かがふざけた声で言う。
「で、学年トップのイケメン一ノ瀬くんはどこ行くんすかー? やっぱり王道の頭いいとこか?」
「なんだよ。なんかその言い方いやらしいな」
「ほら、人気者は進路もキラキラってことで!」
「残念、そうでもないかもよ」
いつも通りの調子で笑って返すと、
周囲からも「らしいわー」と軽く笑いが起きた。
こういうやりとりが、僕は好きだった。
でも、
ほんの少しだけ、「ここを離れる」ことが現実になっていく感覚もあった。
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放課後、廊下を歩いていると、詩乃ちゃんに声をかけられた。
「進路、もう出した?」
「まぁって感じかな」
「……そっか。言ってたよね、おじさんのところ行くかもって」
「うん。たぶん、そっちになると思う」
詩乃ちゃんはほんの少しだけ目を伏せて、
それから「そっか」と短く返した。
「……さみしくなるね」
その言葉に、僕は思わず顔を見てしまった。
詩乃ちゃんの声は、思ったよりも静かで、やさしかった。
「……なんとなく。今はまだ普通に一緒にいるけど、
そのうち、そうじゃなくなるのかなって」
僕はその言葉に、
「そうかもね」って、笑って返すしかなかった。




