23話
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文化祭の喧騒が、少しずつ遠のいていく。
夕焼けが校舎の窓をオレンジ色に染めながら、
残った飾りや掲示物が、風にゆれていた。
廊下を歩く足音も少なくなって、
あれだけ賑やかだった一日が、嘘みたいに静かになる。
僕はひとり、片づけの終わった教室の隅に立っていた。
誰もいない教室。
テープ跡の残る机。
ちぎれた飾りが床に落ちている。
──楽しかった。
けれど、どこか胸の奥がぽっかり空いているような気がした。
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「……あ、いた」
振り返ると、詩乃ちゃんが立っていた。
夕日が彼女の後ろから差し込んで、輪郭だけが赤く浮かんでいた。
「先生が言ってたよ、誰かまだ残ってるって。……片づけ?」
「うん、なんとなく残ってただけ。静かで、落ち着くし」
「……わかるかも」
詩乃ちゃんは僕の隣に来て、
肩を並べて教室を見渡した。
「今日、楽しかった?」
「……うん。楽しかったよ。いろんな意味で」
「いろんな意味?」
「ちょっとだけ、泣きそうになったから」
「……ふふ、なにそれ。わたしも、ちょっと泣きそうになった」
お互い、顔を見ずにそう言って、
少しだけ笑った。
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気づけば、陽はもうビルの陰に隠れていた。
この時間が終われば、
また“普通の毎日”が始まる。
それが、なんだか少しだけ怖かった。




