22話
午前の仕事がひと段落したあと、
廊下で南雲が声をかけてきた。
「一ノ瀬先輩」
声をかけられて振り返る。
「手伝い、ありがとうございました。朝も来てくださって助かりました」
「いや、こっちこそ。いい感じだったね、装飾」
「ほんとですか?」
「うん。教室、ちゃんと華やかだったし。人も集まってたし」
南雲は少しだけうれしそうに笑って、
それから、ふっと真顔に戻った。
「先輩、よかったら……少しだけ、一緒に回ってもらえませんか?」
「え?」
「装飾の打ち上げってことで……!お礼がしたくて」
少し戸惑ったけれど、
断る理由もなかったし、彼女の顔がまっすぐで、僕はうなずいた。
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ふたりで焼きそばを食べて、輪投げに立ち寄って、
雑貨コーナーでキーホルダーを眺めて――
南雲はよく笑って、時々こっちを見上げるようにして話した。
その笑顔を見てると、
なんだか「普通の高校生活」って、こういうのかもしれないと思った。
だけど。
その帰り道、
中庭に面した廊下のガラス越しに、ふたりの姿が見えた。
詩乃ちゃんと、隼だった。
じゃんけんか何かをして笑っていて、
詩乃ちゃんが何かを指差して、隼が肩をすくめて、
ふたりの距離が、少しだけ近く感じられた。
足が止まった。
南雲が何か言ったけど、耳に入らなかった。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
そうだ、知ってた。
彼女の隣に立つのは、僕じゃない。
わかっていたのに。
それでも、やっぱり苦しかった。
「……先輩?」
不意に肩を叩かれて、はっとする。
振り返ると、南雲が心配そうな顔でこちらを見ていた。
「あ……ごめん。ちょっと、ぼーっとしてた」
「大丈夫ですか? 体調とか……」
「ううん、大丈夫。たぶん疲れてるだけ」
そう言って笑ってみせたら、南雲も少しだけ安心したように笑い返してくれた。
「じゃあ、あともうちょっとだけ……歩きましょうか?」
「うん。そうだね。せっかくの文化祭だし」
なるべく、いつも通りの声でそう言った。
ほんの少し、心を置き去りにしたまま。




