20話
文化祭の準備がはじまった。
教室の隅に模造紙や絵の具が置かれて、
いつもと違う匂いが、少しだけ新鮮だった。
「今日、装飾の人いなくてさ。時間あったら、手伝ってくれない?」
放課後、プリントをまとめていた僕に、
詩乃ちゃんがそう声をかけてきた。
「うん。いいよ」
気づけば、教室には僕と詩乃ちゃんのふたりだけになっていた。
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黒板前に広げた紙に、
マスキングテープを貼りながら、
詩乃ちゃんがぽつりとこぼした。
「なんかさ、こういうの、最後だと思うと……ちょっと寂しいね」
「文化祭?」
「うん。行事とか、あとどれくらいあるんだろって考えると、
全部が“終わりに向かってる”感じがする」
僕は手を止めて、しばらく何も言えなかった。
それってきっと、
僕だけじゃなくて、詩乃ちゃんも気づいてるってことだ。
「……そうだね。なんか、ゆっくりだけど、進んでるっていうか」
「進んでるのかな。私は……あんまり変われてない気がする」
「……詩乃ちゃんは、ちゃんと進んでるよ」
そう言った自分の声が、
少しだけ震えていた気がした。
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作業が終わって、廊下に出たとき、
夕焼けが窓ガラスに淡く反射していた。
何も特別なことはなかった。
でも、何かを伝えそびれたような感覚だけが残った。




