17話
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夏休みが明けた。
蝉の声が少しずつ遠ざかって、
代わりに、教室にはプリントの束と、進路指導の声が戻ってきた。
「進路希望調査票は来週中までに提出なー。まだ時間あるから、よく考えて書くように」
担任のその声も、どこか他人事みたいに聞こえた。
教室中が“次”に向かって動き出している。
そんな空気の中で、僕はまだ、立ち止まっている気がした。
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休み時間、隣の席の詩乃ちゃんがちらりとこっちを見る。
「進路、決まった?」
「……一応、書くとこは決めたけど。まだ迷ってる」
「ふーん……」
それ以上は何も言ってこなかった。
だけど、ほんの少しだけ気まずそうな間があった。
隼はといえば、最近また少し明るさを取り戻しつつある。
詩乃ちゃんとも、何気ない会話をするようになっていた。
でも――
なんとなく、“前と同じ”には戻らないんだろうな、ってわかってた。
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放課後。机に伏せたまま、プリントの進路欄をぼんやり見つめる。
書こうと思えば、書ける。
親も担任も、きっと何も言わない。
でも本当は、
「進みたい道」なんて、最初からわかってない。
ただ――
「伝えたかったこと」と、「叶えたかったもの」が、
どんどん遠ざかっていくことだけは、確かだった。




