ep.1-3 魔窟の森
訪問者達も
満腹になった満足感から
落ち着いたようだ
従者の一人が
「はぁ~
おいしかった。
このスープとパンやばいな。
初めて食べるスープだったけど
香りも味も凄くいいな。
それにこのパンの柔らかさもいい。
疲れた胃にも優しくて
食事で満たされたのは
久しぶりだよ。」
「よかったらエールもありますが用意しますか?」
「嘘だろ?
酒もあるのかよ。
是非飲ませてくれ。
まさかここは天国か?」
ワルターが続けて
「すまないな。
こんな辺境の地で
おいしいものに出会えただけでも幸運なのに
部下が調子に乗ってしまって。」
「いいんですよ。
戦闘後は精神的に負荷がかかった状態になりますから。
息抜きは必要ですよ。」
私はエールを人数分用意して
再び離れに向かう前に
カリアに伝えた
「カリア。
結界の動作レベルを一段階上げてくれ。」
「どうしたの?
いきなりそんなこと言うなんて。」
「ほぼあり得ないことが起きてるんだ。
また何かあっても不思議じゃないだろう。」
「わかったよー。
今、結界の中に新しく何か入ってきたら
信号が出るようにしとくね。」
エールを持って戻ってきたところ
ワルターを中心に6人が尋ねてきた
「早速なんだが
ここはどういう場所なんだい?」
「そうですね。
まずは自己紹介をしましょう。
私の名前はマティアといいます。
年齢は17歳です。
元々はアルベの北辺の村に
家族で住んでいたのですが
戦乱で家族バラバラになってしまって
わたしだけここに流れ着いた感じです。
あっちの家で一緒に暮らしているのは
カリアといいます。
年齢は7歳です。
彼女は元々ここで生まれて育った子です。
ここは世間一般には
通称『魔窟の森』
都会の人々からは
別名『悪疫の森』と呼ばれる
魔物で溢れる場所です。
向かいの大陸の方なので分からない思いますが
この周辺では10年前後に一度
魔物のスタンピードが発生する危険なエリアで
ここは元々住んでいた所を追われた人達が住む村でした。」
「村?
他の住人が見当たらないが
どうしたんだ?」
「私自身はここに住み始めて1年弱なのですが
元々この村は
北のアルベ
南はコメンスランドの人間だけでなく
東のエルフや他の種族も住んでいました。
ですが半年程前に起きた魔物のスタンピードが原因で
村の大半が犠牲になってしまいました。」
「結界があるのに
何故そうなってしまったんだ?」
「結界を運用する為に
大量の魔力を消費する為です。
この村には結界が5箇所あったのですが
最悪を想定して
箇所を減らして集中運用すれば良かったのですが
魔力が無くなってしまえば
近接戦闘をしなければならないので
必然的に数の暴力で結末が見えてしまいます。」
「そうか。
それは酷なことを聞いてしまったな。」
「仕方がないです。
この世の中は残酷ですから。」
「どうやって今まで生きて来れたんだ?」
「新しい結界を作って
この土地に流れる自然の魔力を流用することで
私達自身の魔力を使いはしますが
消費量を減らす事ができるようになりました。
自給自足で作っている野菜も
魔力の影響で発育がいいのと
必要に応じて魔物を狩ったりもしているので
食料にも困ってはいないのが現状です。」
「魔物を狩るといっても
どうやって狩っているんだ?」
「私が前衛で近接戦闘をして
カリアが後衛で魔法を使ってくれていますから。
最低限の狩猟しかしない上に
安全最優先の戦闘だからだと思います。」
「どんな武器を使っているんだ?」
「良かったらお見せしましょうか?」
「興味あるな。
頼む。」
「今持ってくるので少し待っていてください。」
家に武器を取りに離れを出ていった
その間にワルター達が話し込む
「みんなどう思う?」
「正直疑問に思う点が
かなりあるってのが
本音ですねぇ。」
「やっぱりそう思うか。」
「あの年齢で生活だけでなく
戦闘行為も難なくこなしているというのが
1番不思議ですね。」
「どんな秘密があるかは
教えてくれないかもしれないが
確かに興味を持つ点ではあるな。」
そこへ自前の武器を複数持った私が帰ってきた
「お待たせしました。
本来は自分の手札を見せるものではないのですが
この武器は私にしか使えないので。
どうぞご覧ください。」
代表でワルターが私の武器を手に取る
「この剣はかなり細い剣身だが
これで斬撃を加えたら折れてしまったりしないのか?」
「普通の鉄でできた剣ならそうでしょうね。
この剣の場合
使用している金属が別物なので
折れてしまう心配はありません。」
「では何の金属でできいるんだ?」
「オリハルコンです。」
「嘘だろ?
所有しているのは
各種族や冒険者の頂点にいるものや
王家ぐらいしかいないぐらい
この世に僅かにしかないんだぞ。」
「そうですね。
形になっているものはそうでしょうね。
ですが僅かではありますが
オリハルコンに限らず
希少な物質は意外な所に
少量ずつ存在しています。」
驚愕する訪問者達を横目に話しを進めていく