警護人 猿川
「戻りました。」
「ご苦労。」
先輩は菓子パンを頬張りながら、俺に缶コーヒーを差し出した。
「ありがとうございます。」
「ねずみは駆除出来たか?」
「駆除というか・・・免職ですかね。」
手元の缶コーヒーを開けて、グビっと一口飲んだ。
「証拠は集まってたのか。」
「ええ、面倒でしたけど・・・。じきに退職することになるかと。」
先輩はふ~んといいながらデスクに足を置いて組む。
「おつかれ~い!あ、猿川くん戻ってたんか。」
「あ、お疲れ様です。」
「五十嵐、学校の警護はどうした。」
「大丈夫だって。今日もガラの悪い奴2,3人しめて、それに絡んでるヤンキー共やっつけて、そいつらを飼ってたチンピラを駆除して、そいつらの親玉の半グレわからせて、そいつに関わってる周りの奴らに箝口令しいてきたんだっての。バタフライエフェクトって知ってる?俺は小夜香様に汚い手で触れようとする奴らを根絶やしにするために、どんな小さな芽も大きくならないように積んでいってんの。」
「お前の悪いところは余計な話が長いところだな。」
先輩は立ち上がって、監視カメラ映像を仁王立ちで眺めた。
「猿川、今回のねずみ・・・きちんと処理出来たんだろうな?」
五十嵐さんは椅子に腰かけて同じく食事をとりだした。
「ねずみは所帯持ちの教師でしたので、簡単な圧力で屈しました。学校の方にも改めて注意喚起しておきましたし。」
「ふん、まったく・・・近頃の教師はゴミだな。職権乱用して女子高生に近づこうなど・・・。」
「日本も海外でもどこでも、人間は生ものだからさ~、ほっとくと腐っちゃう奴はいるって。」
小夜香様を含め、御三家の監視対象の方々は、皆見目麗しく目立つ人たちだ。
それ故に利用しようとするものや、陥れようとするものが後を絶たない。
更夜様のように立場があり優れた大人ならば身を護ることも容易く、万が一襲われても不審者を追い払える程の腕をお持ちなので心配ない。
けれど小夜香様や晶様のようなか弱い女性で学生ならば、過剰な警戒を怠ることは出来ない。
「それにしても・・・」
俺は先輩の横で同じく映像を眺めた。
「小夜香様・・・最近いつも以上に咲夜様の自宅に出入りしていらっしゃいますよね。元々仲がいいとは言え・・・。」
俺がそう言うと、二人は少し沈黙した。
「・・・それはお前、お二人がお付き合いされているからだろう。」
「・・・・・・・は!!?お付き合い!?」
「びっくったぁ・・・猿川くん何、そんな大声でんだw」
「何をそんなに驚くことがある・・・」
「え!だって!!お二人はいわば幼馴染でしょう!?先輩だって去年は『そういう関係じゃないと思う』って言ってたじゃないですか!!」
「そうだが・・・今はそういう関係だろう、どう見ても・・・。」
「え・・・ええ・・・・そういう関係なんすか?」
「俺・・・こないだ、路チューしてんの見たよ。」
五十嵐さんの言葉に俺は絶句した。
「そ・・・んな・・・。小夜香様はまだ16歳ですよ?彼氏とか早くないすか?」
「はは!猿川くん脳みそふるwむしろ彼氏ほしい年頃でしょ。」
「そこまでだ。無駄口は叩くな、仕事しろ。猿川、貴様の忠誠心や仕事に対する姿勢はいいが、私情を持ち込むな。それが小夜香様に向けてなら尚更だ。個人的には誰が誰を好きになろうとどうでもいい。だが、更夜様に迷惑がかかることになれば、我々は倉根さんに合わせる顔がない。あの方に首を切られれば、私たちはまた訓練場送りだ。」
「俺らスリーマンセルだかんなぁ。連帯責任なんてごめんだし、尻ぬぐいはもっとごめんだ。」
五十嵐さんは俺の肩を叩いて、おにぎりを頬張ったまま監視室を出て行った。
「先輩・・・取り乱してすみませんでした。」
「私の言ったことを肝に銘じろ。お前は仕事のミスは少ないし覚えも早い。間違いなく今までで一番使える新人だ。腕がたつところを周りに見せろ。そして再三言うが・・・」
先輩は俺に向きなおり、鋭い瞳で見据えた。
「私情は挟むな。いいな?」
「・・・はい。」
小夜香様が最後に映った咲夜様の自宅のドアを、画面越しに見つめた。
俺たちは島咲家に雇われている監視及び、警護人。
御三家が解体した今、ひっそりと日常を送る彼らを護らなければならない。
「はぁあぁあぁ・・・付き合ってんのかぁあぁ。」
「うるさい!」
「いたぁ!」
猿川 心、 今日も先輩にケツを蹴られる。
目標は、小夜香様を生涯お護りすること。
決してストーカーではない。