お父さんは星に帰っていく、だから!
お父さんがいる!
それだけでワクワクするのは何故だろう。
僕は翌日とっっっっても早起きできた。
だから、ヤクの世話はお母さんの代りに僕がしよう!
僕は家畜小屋に走っていき、ヤクの為の牧草などを用意しようと、しようとして、ちょうどヤクが鬼に盗まれる現場に居合わせてしまった。
こういう時は逃げなさい。
お母さんは僕に言い聞かせていたけれど、僕の足は脅えて固まって、声だって出なかった。
真っ黒い髪を何本も束ねて、銀色の角を頭から何本もはやしている鬼は、僕を見つけて軽く笑い、久しぶりの原住民だと嫌らしい笑い声を立てた。
すると、短い髪を赤と紫と青に金と色とりどりに生やしていて、額に銀色の角を生やした鬼も出て来て、俺を一目見た後黒い髪の鬼に言った。
「小さすぎるぞ。メスかオスかわからんし。」
「どうせ殺すんだ。構わないだろ。」
殺される!
僕は怖くて目を閉じるしか無かった。
……、……、……、あれ、どうして何も起きないの?
俺が目を開けると、鬼は二人とも倒れていて、鬼の角は真っ黒に焦げていた。
そしてお父さんがいて、彼は鬼を後ろ手に縛ってもいるのである。
「はい。こちら二名捕縛しました。彼らの角より信号が飛んでいるはずですので、恐らく半時間しないでこちらへの強襲があるはずです。その前に砲撃をお願いします。」
お父さんは意味の分からないことをぶつぶつ喋っている。
僕はお父さんに助けられて無事だったみたいだけど、お父さんが背中を向けて誰かと話しているらしい姿を見ているうちにとても悲しくなった。
だって、ミーナのお父さんは、ミーナが転んだだけで抱っこしてくれるし、怖かったという前に抱っこしてくれるんだよ。
僕のお父さんは。
「それで、俺はこちらで守るものがあるので、武器も無いですし、頼みますよ。」
お父さんの声が急に近くなった?
僕は顔を上げると、お父さんは目の前にいて、僕をひょいと抱き上げた。
「怖かったか?お前は強い子だな。」
僕はお父さんの首に腕を回し、お父さんの肩に頭を乗せた。
お父さんの頭も体も硬い皮膚なのに中身がモヤモヤしている変な手触りで、それはお星さまになったからなんだろう。
お星さまになる前のお父さんはどうだったんだろう。
そして、お星さまになる前のお父さんは僕を抱っこしたりしたのだろうか。
した事がなかったら、ええと、僕は毛皮を着ている偽物の僕だ。
「お父さん!降ろして!」
「あ、ああ、ごめん。」
僕は地面に降りると、脱いだ。
脱いじゃいけないってお母さんが言っていたのに、僕はヒバエを脱いだのだ。
だって、本当の僕をお父さんは抱っこしないと!
本当の僕がお父さんに抱っこされないと!
だってお父さんは全部終わったらお星さまに戻ってしまうのだもの!
「お父さん!これが本当の僕なの!こんなに大きくなったの!」
僕はお父さんに手をさし伸ばした。
けれどお父さんは石みたいに動きを止めてしまっていた。