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とある飛行士の不安

 なんたること!


 植民星イーグスリーよりの救難信号によって、俺はイーグスリーへの偵察に向かった。

 その途端に、ドン、ドカンだ。

 この星にガレリア宇宙海賊団が不時着していたとは知らなかった。


 ついでに、彼らが律義に救難信号を送っていたとは!


 法を馬鹿にしている癖に、いざ困難に落とされるや、宇宙不文律の「難破船には国籍や政治的思想またいかなる条件があろうとも救助すべし」というルールを持ち出してくるとは!

 で、俺の船が宇宙パトロールだと知って撃って来るとは!


 俺は取りあえず主船には救難信号と簡単な報告、武装海賊がいるぞ、を送ったが、この俺自身はよくて不時着その後は海賊団への捕虜という運命が待っている。


 ついていない。

 溜息を吐きながらそれでも最後まで船の操縦桿を握って足掻いていた。

 船窓から村があるのは確認できた。

 民家に落ちるのだけは避けなければいけない。


 ぱちぱち。

 ぱちぱち。


 俺のヘルメットを誰かが叩いている。

 真っ黒な手袋をした小さな手?

 何だと思って目を開ければ、俺に覆いかぶさるようにして獣が見つめていた。

 猫みたいな大きな目はただただ爛々と輝いて、瞳の様子さえわからない懐中電灯状態だ。


「うわあ!」


 人間として当たり前の行動、思い切り驚いて身を起こす、をしてしまった。

 俺はごつごつでなんだか不安定な大地に横になっていたようで、起き上がった途端に転がりそうになり、深酒をした日のようにして再び大地に横になってしがみ付いた。

 獣は目を覚ました俺に一瞬驚いた様子であったが、俺に飛び掛かるような構えをした。

 食料だと思われて飛び掛かって襲ってくるか?


 あ、顔に両手を当てて獣が泣き出した?

 しゃがんだ幼児が両手を目元に当てている、そんな幼気な格好をしただと?


「おとうさん。僕のことを忘れたんだね。」


 畜生。

 獣の姿をしているが知的生命体だ!

 手袋をしてブーツを履いている所で、どうして気が付かなかった。

 ああ、相手が人間の姿だったら、思いついた適当な事を言いくるめて慰めるだろうが、相手は獣だ。

 お父さん言われても適当な言葉なんて浮かばねえよ!

 俺がオスだって所は正解だけどな!


「お星さまになって長いものね。僕はお父さんが落ちて来たって、お父さんを拾いに来たのに!」


 ありがとう。

 適当な言葉の為の情報をくれて、本当にありがとう。


 取りあえずこのままではガレリアに捕縛されるという状況から抜け出すために、俺は揺らぐ大地にバランスを取って起き上がって座り直すと、獣の手を取った。

 獣は俺の十歳の姪っ子ぐらいの大きさで、どう猛どころか大人しくて従順で、だから頭に浮かんだ適当な言葉をこの獣に放つには俺の普段仕事しない良心が疼いたぐらいだ。


 だが、俺は自分の生存権こそ大事にしたい。


「今まで星だったから自分の名前も思い出せないんだ。ごめんな。ただ、守りに来た、それだけは覚えている。それでな、お星さまだったから俺はこの銀色のツルツルなんだよ?」


 とりあえず宇宙服は脱がない方がいいだろう。

 同種だと思わせた方が俺の生存確率は高くなる。


「それでなって、うわっ!」


 俺の適当過ぎる言葉を受けた獣は、俺の肋骨が粉砕する勢いで飛び掛かって来たのである。


「お父さんだ!。」


 俺が作った覚えのない獣は俺に抱きつき、その必死な抱きつき方に、俺は溜息を吐くしかなかった。

 そして俺は獣を抱き返し、獣にもわかるはずの言葉をかけた。


「安全な所に行こう。このままでは悪い奴らが襲ってくる。」


「そうだね。お父さん。じゃあ、急いで家に帰ろう!お母さんが心配している!」


 え、この子は幼獣でって、お母さんいるんならだまくらかせねえぞ?

 俺は死んじゃう?

 幼獣騙した咎で処刑されちゃったりしない?


「って、うわああああ!」


 俺は再び大地から転がりかけ、大地に再びしがみ付いた事で、俺が何に乗っていたのかようやく気が付いたのである。

 牛の二倍サイズある巨大トカゲに乗っているぜ、と。


 もう逃げられないし、俺はこの子のお母さんとやらに嘘吐きと断罪されて、きっと明日にはこの恐竜の餌になるかもしれないな、と、恐竜の足音のどかどか音を聞きながら黄昏たまま運ばれた。

 しかし、この子、フィルの母親、サーニャは、俺を殺すどころか俺の正体を一目で見破ったらしい。

 彼女は子供を子供部屋に返すと、俺に頼んで来たのである。


「お願いです。この土地を去るまで、あの子の父親の振りをして頂けませんか?あの子は生まれた時から父親と言うものを知らないの。」


「構いませんが、かえってフィルを傷つけませんか?」


「父親の残した牧場のヤクは半分になり、父親がいたならばまとまっていた村人は散り散りです。あの子は沢山傷つきました。せめて、この体験で楽しい事もあったと記憶に残って欲しいの。」


 子供がいないどころか結婚もしたことの無い男が何を言えるだろう。

 俺はサーニャの願いを受けるしか無かった。

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