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転生魔王は巡り合う  作者: くま太郎
サキュバス 編
31/99

魔王様はすすめる

荷が重い。なんでも実さんは呪いの影響で食欲が減退しているらしい。


「実はお粥すら残す様になっているんだ。頼む、なんでもするから俺に力を貸してくれ」

 なんでも、おじさんとんでもない事お願いしちゃうかもよ。


「とりあえず状況を聞かせて下さい。それと妹さんの好きな食べ物とか」

 サキュバスの呪いで食欲がなくなる……そんな話聞いた事ないんだけど。


「三週間くらい前から食べる量が減ってきたんだ。最近は点滴ばかりしている……実の好きな食べ物だよな。果物ならなんでも好きだぞ」

 今の状態で消化の悪い物を食べさせたら、胃の負担になってしまう……そうだ。冷蔵庫にあれがあったな。

(問題は三週間前に何があったかだ)

 三週間前……丁度キマイラを倒した頃か。でも、あそこでサキュバスの魔力は感じなかった。他に要因があったと思う。


「分かりました。都合は合わせますので、いつでも言って下さい。状態異常を防ぐ魔法を掛けておきますね」

 他のメンバーが襲われたら元も子もない。


「良かった。あいつの情報を集めていたら、逆に襲われたんだ。それで逃げる時にペンダントを取られるし……でも、これでやっと実を助けられる」

 秋月さんはそう言うと床に座り込んで泣き始めた……最善は尽くしますけど、絶対じゃないからな。


「しげちゃん、ちょっと良い?」

 物凄く良い顔で、話し掛けてくる桜。その顔には有無を言わさぬ迫力がある。


「……はい、分かりました」

 桜に腕を引っ張られながら移動。絶対に部下には見せられない姿だ。

 連れて来られたのは応接室。


「魔王様、ちゃんと解呪出来るの?」

 桜ちゃん、俺は元だけど魔王様なんだぞ。怖いんだからな。


「会ってみないと分からないよ。いもうとさんに呪いを掛けたのはサキュバスだけじゃない可能性が高いんだ。もう一つある可能性が考えられるけど、確率は低い」

 これは魔族に詳しい俺しか分からない事だ。

 もう一つの可能性は何らかの触媒を使っている可能性。でも日本で手に入る触媒は限られている。俺は日本人としての知識を応用しているだけなんだし。


「どういう事?晴も呪いが掛けられているんだよ」

 うん、あれだけ話せば流石に分かる。


「晴さんに掛けれた呪いは、本人じゃなく魔石に掛けられている。それにサキュバスが使える魔法や呪いは精神関与系がメイン。健康を害せる様な魔法は使えないんだ。サキュバスクイーンレベルなら攻撃魔法も使えるけど、そんな奴がいたら俺が分かる」

 そしてサキュバスは猿森の件に関わっている。他の魔物が今回の件に関わっている可能性も高い。


「晴の呪いは解けないの?」

 解けるといったら絶対に解呪させられる。でも解けないと言ったら魔王の沽券に関わる。


「呪いを解くと掛けた本人にバレちまう。まずは妹さんに会ってからだ」

 本音を言うと呪いを解くには魔石に触れなきゃいけない。調べてみたら魔石は体と同化にしているらしい。

つまり身体に触らせてと言っているのと同じなのだ。


 アゥエイ全開です。これから妹さんのお見舞いに行くんだけど、桜は部活で不参加。


「岩倉さん、今日は頼むぜ」

 一人目はもちろん秋月さん。いきなり知らないおっさんが訪ねて行っても警戒されるだけ。姉である秋月さんには来てもらう必要がある。


「岩倉さん、今日はよろしくお願いします」

 そしてフェスティの転生体でもある夏空さん。正直二人とはそんなに親しくない……おっさんが女子高生と親しかったら、問題なんだけどね。


「それじゃ失礼するぜ」

 秋月さんはそう言うと車に乗り込んできた。まあ、後部座席に行くよね。

今日は私服の様で、水色のシャツにハーフパンツ。思わず生足に目がいきそうになるけど、我慢。


「お邪魔します。桜ちゃん抜きで会うのは初めてですね」

 夏空さんの私服はフード付きの茶色いワンピース。おとなしめというかシックな感じだ。そして夏空さんも後部座席に。

 普段助手席に座るのは大村か桜。自分の車なのに疎外感が凄いです。


「病院の名前を教えてもらえますか?」

 ナビに行き先を打ち込む。

(会話に入りこめない……カーラジオでも付けておくか)

 今の若い子が流行りの歌なんて聞かないから、絶対に微妙な空気になってしまう。



『次の話題です。竜崎植物園で新発見の蘭が見つかったそうです。一目見ようと大勢のお客さんが訪れているそうですよ』

 竜崎植物園か。確か白樺さんと杉待さんが勤めている所だよな。


「そう言えば静香は素直と、ここの植物園に行ってるんだよな」

 雪守さんは幼馴染みの川路素直君と植物園デートに行っているそうだ。青春そのもので、おじさんはうらやましいです。


「静香さんチケットをもらえて凄く喜んでましたよ。岩倉さんにお礼を伝えて下さいって念を押されました」

 雪守さんに植物園のチケットを上げたのは俺である。白樺さんからこの間のお詫びとしてもらったのだ。


「あれはもらったんじゃなくて、強請ったって言うんだぞ。しかし静香も健気だね。植物が好きな幼馴染みとデートの為に、チケットを手に入れるんだから。しかし岩倉さんも人が良いよな。金持ちの静香にただであげちゃうんだから」

 川路素直君、猿森生まれの高校一年生。桜達と同じラルムの生徒で、雪守さんの幼馴染み。


「俺が持っていても使わないから、喜ぶ人にあげた方が良いんですよ」

 休みの日は植物園に行くより寝ていたいタイプだ。何より雪守さんの実家に媚びを売っておきたいんです。


「岩倉さんは植物園お好きじゃないんですか?」

 好き嫌いというより、縁がないと言った方が正しい。


「俺は田舎者なんで、自然の方が落ち着くんくですよ」

 休みの日は寝ていたいタイプだし、あんなファミリー向けの所に一人で行ったら、心がやさぐれてしまう。


「桜と同じだから、青森県の弘前だっけ?……そこを右に曲がってくれ」

 ……話には聞いていたけどマジか。見えてきたのはホテル並みの豪華な病院。

(そう言えば秋月さんも良いとこのお嬢様なんだよな……待てよ)

 ある疑問が頭をもたげてきた。


「あの妹さんに俺の事をなんて伝えているんですか?」

 桜の知り合いにおっさん……縁が薄すぎて見舞に行く意味が分からないぞ。


「わ、わ私達の知り合いですよ。さあ、行きましょう」

 慌てる夏空さんとそれを見てニヤニヤする秋月さん。展開がカオスです。


 そう来たか。これは解呪が面倒だぞ。


「お話は祭お姉ちゃんから聞いています。私は秋月実と言います」

 実さんは儚げな美少女だった。それと夏空さんは俺の事をなんて言っているんでしょうか?


「そうだ。実、岩倉さんが美味しい物持ってきてくれたんだぞ」

 いもうとさんを見るせいの目はどこまでも優しい。この姉妹を不幸にしてはいけない。


「俺は青森県の弘前って、ド田舎の生まれなんですよ。名物はりんご。俺の親戚にもリンゴ農家が多いんですが、これは農家が自家用に作ったリンゴジュースです。使うリンゴも厳選しているので、甘みと酸味のバランスが最高です。これなら胃に負担も掛かりませんよ」

 プレゼン魔法を発動、リンゴジュースに体力回復、呪い遅延、食欲増進の効果を付与。


「美味しい……優しくて体に沁みこんでいきます」

 これはプレゼン魔法だけの効果じゃない。本当に美味しい物だから、俺も自信を持って進められるのだ。


「……ちょっと失礼します。招かざる客が来たみたいなんで」

 遅延魔法で呪いに関与した為か、サキュバスが近づいて来ているのが分かった。


「岩倉さん、俺も一緒に行くよ。俺ならあいつの顔が分かる」

 秋月さんの決心は硬いようだ。まあ、ここで倒す必要はないから、大丈夫だろう。


「祭お姉ちゃん、私は大丈夫だから……お姉ちゃんと岩倉さんについていって」

 実さんは俺が戦える事を知らない筈。彼女からみればまともな戦力を持っているのは、夏空さんだけなのだ・


「実、大丈夫だ。岩倉さんは頼りなく見えるけど、化け物並みに強いんだぞ」

 秋月さん、今のは褒め言葉なんでしょうか?化け物と一緒にされるなんて魔王様ショックです。


 病室を出ると甘い香りが廊下に充満していた。その香りの所為で、看護師や患者さんは廊下で眠っている。

 現れたのは、グラビアアイドル顔負けの美人。ビジネススーツを着ているけど、胸元が深く空いている。


「私の呪いの邪魔をしたから、どんな子供が来たかと思ったら……優しそうな大人の男性なんですね。ねえ、おじ様その怖い女から私を守ってくれませんか?」

 そう言ってサキュバスは体をくねらせた……魅了魔法の効果を上げる動きなんだけど、素面だと痛い人にしか見えない。


「怖い女って誰の事だよ!気持ち悪い動きしやがって」

 怖い人イコール秋月きみさんの事だと思う。だって背後から怒りのオーラをビンビン感じるもん。


「あー、あれはサキュバスが魅了魔法を使う時に良くする動きなんですよ……おい、こんな所で患者さんを眠らせて風邪でもひいたらどうするんだ?」

 まあ、サキュバスにとって人間は餌兼道具でしかない。何をしても良心が痛む事はない。


「まあ、お優しいんですね……グフォ……DVなんて最低の男がする事よ。信じられない」

 いや、あんた俺に魅了魔法を掛けたじゃないですか。つまりケンカを売ったのと変わらないんだけど。

 俺は普通の女性には手を上げない。でも相手が日本で好き勝手にやっている魔族なら別だ。


「流石は岩倉さん、いきなり腹パンなんて容赦ないな」

 なんだろう。今度も褒められている気がしないんですが。


「随分魔力をため込んでいるな。何人堕とした?」

 クイーンレベルまではいかないけど、中級魔族級にはなっている。


「失礼ね。私は可哀そうな日本男子に幸せをあげただけよ。まあ、もうユニフォームガーディアンになれないみたいだし、その姉妹には関わらないであげる。貴男、絶対に女にもてないでしょ。お人良しと優しいのは違うのよ。まっ、あんたじゃ女の言いなりにならないと相手にされないか。じゃあね、冴えないおじさん」

 サキュバスはそう言うと影に潜り込んだ。

(あいつの魔力はハンカチに残っていたものと同じだ……後は調査を待つか)

 流石に病院で流血騒ぎは起こせない。だから手加減をしたけど……人の気にしている事を言いやがって、やけ酒してやる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 逃がしたのまずいんじゃない(薄笑)
[一言] みんな寝てるんだからそのまま拘束してしまえば良いじゃないの?
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