2-4話
幸大はシークレット・サンシャインから単3型の電池を受け取るとトンネルの入り口の地面に埋め込みトンネルの内部を把握した。
幸「トンネルの長さは百メートルと少し、やや左に湾曲、八十メートル付近に待機する智琉と龍を捕捉、そこに行き着くまでの数箇所に様々な罠が存在、恐らくはあの龍のエネルギーで作ったものか。このままトンネル内に足を踏み入れればこちらの玉砕は必至か。と言っても、それは俺が考え無しの馬鹿だったらの話だけどな」
幸大は振り返るとシークレット・サンシャインから今度は単1型の電池を受け取り辺りを眺めた。幸大の目には全体が赤く錆び付いた巨大なトレーラーが映った。
幸「あれが良いな」
幸大はそのトレーラーに近付き電池を埋め込んだ。トレーラーはエンジンを唸らせながらゆっくりと動き出した。
幸「こいつをただ突っ込ませても俺の勝ちが確定するかは分からない。手土産を盛大に持たせてやるか」
幸大はシークレット・サンシャインから単4型の電池を数十個生み出すとトレーラーが牽引するタンクの穴から中に入れ込み、そのままトンネルの内部へ進行させた。トンネルに入るとトレーラーは一気にスピードを上げ瞬く間に幸大の目的とする地点に近付いた。
幸「……頃合いだな。仕掛けた電池がそろそろ……」
次の瞬間、タンクに仕掛けた単4型電池が起爆、更にはそれがトレーラーにも誘爆して凄まじい爆発を引き起こした。トンネルの奥から何か物凄い衝撃が迫って来るのを入り口に立っていた幸大は感じ取った
幸「やばっ!」
幸大が咄嗟に避けた入り口から恐ろしい勢いで爆炎と煙が放出された。その爆発によってトンネル内部は幸大が想定していたものよりも遥かに甚大な被害を齎らした。
幸「あっちゃー、タンクの中にやばいもんでも残ってたのか?とんでもない事になったな」
入り口から中を覗くも先は見えず、埋め込んだ電池で探ってみても数メートル先から奥は完全にトンネルが崩落し道が潰れてしまっていた。
幸「殺すつもりまでは無かったんだけどなあ。残ってるか分からんが死体でも回収して供養してやるか。智琉の奴は何宗なんだろうなあ?」
幸大は火の粉が舞うトンネル内に足を踏み入れ進んだ。
?「葬式の心配なら必要ない」
幸「!?」
聞こえる筈のない声に幸大は恐る恐る振り返った。そこには悠然と佇む智琉と入り口を完全に塞ぐレッド・ドラゴンの姿があった。
智「俺はこうして生きているからな」
幸「……なんで……いや、どうやってあの地点から脱出した!?抜け道なんてものはどこにも……」
智「俺がこのトンネルの中に入ったってのはお前の思い込みだ。俺はずっと外にいた」
幸「……何言ってる?俺はちゃんとお前が……」
智「俺の姿を見たのか?はっきりと?」
幸「………………エネルギー……なのか?俺が捉えた姿はまさか……!?」
智琉は地中から出したエネルギーで土煙りを上げた瞬間にレッド・ドラゴンのエネルギーで自身とレッド・ドラゴンを形作りそれを操作して自分達がトンネルに入った様に見せかけたのだ。
智「このトンネルの中で吹き飛んだのはレッド・ドラゴンのエネルギーで作ったダミーの俺達だ。一つ間違ってればこうなってたかと思うと背筋が凍る」
幸「馬鹿な、俺はトンネルに目を付ける前にこの一帯も埋め込んだ電池で見渡した。その中にお前達の姿は無かった」
智「ただいるだけじゃバレてたかもな。だから隠れたんだよ」
幸「……隠れただと?」
智「そう、物陰を作ってな」
エネルギーで自分達のダミーを作ると同時に智琉は廃車の山の奥でエネルギーを車型に造形したものを配置しその中に自身とレッド・ドラゴンを潜ませたのだ。幸大は一帯を調べた時、そのエネルギーの車を数多ある廃車の一台と無意識に認識してしまい中の智琉の存在に気付けなかったのだった。
智「どうする?太陽の光が取り込めないこの状況でお前のアンノウンに何が出来る?」
智琉は自身の絶対的有利を確信した。しかし、幸大の表情には焦りは無く、それどころか今までの中で最も落ち着いた表情を見せていた。
智 (……まだ何か隠してるのか?)
その時、幸大はシークレット・サンシャインを自分のカードに戻してしまった。
智「……えっ!?」
想定もしてなかった事態に困惑する智琉にゆっくりと幸大が歩み寄って来た。
智「ま、待て!どういうつもりだ!?」
幸「降参だよ、俺の負け。どうにも出来ないから矛を収めた。ただそれだけ」
智「降参って……、お前はもう戦えないのか?」
幸「あるにはあるぞ、取って置きのが。だがそれはここで使う為のものじゃない」
会話をしながらも歩みを止めない幸大に智琉は言い知れない恐怖を覚えた。
智「ぐっ…………」
智琉はレッド・ドラゴンを幸大に向けるも攻撃を下す決心が付かなかった。苦い表情を浮かべる智琉の真正面で幸大が立ち止まった。
幸「可笑しな奴だな。俺がアンノウンをしまっただけで攻撃を躊躇するなんてな。まあそのお陰で俺は生き延びれるんだから文句は言えないな」
智琉とレッド・ドラゴンの脇を通り幸大は過ぎ去ろうとした。
智「待て!」
智琉の制止に幸大は足を止め振り返った。
幸「ん?」
智「お前達の……、お前達の目的は何なんだ?どんな目的があってお前達は集まったんだ?」
力強く問い掛ける智琉に幸大は静かに口を開いた。
幸「俺達の場合、順序が逆だ」
智「……は?」
幸「目的があって集まったんじゃない。同じ場所に居た者達が共通の目的を掲げただけだ」
それだけ言い残し幸大は立ち去った。智琉はその背中を追う事をせずレッド・ドラゴンをカードに戻した。智琉の心には泰馳と戦った時と同じ様でどこか違った虚しさが残っていた。
智琉と幸大が戦っていた地点から少し離れた場所に建つ建物。その屋上から智琉達の戦闘の様子を双眼鏡を用いて観察していた二人の少女がいた。
梨「茉希、どんな感じだった?」
茉「あんたも見てたでしょ。どうやら日の光が無いとまともに戦えないみたいじゃない」
梨「そうじゃなくて、もう一人の方」
茉「あっち?みすみす敵を逃がす奴の方!?いや無理でしょ!」
梨「そう?だからこそ私達が付け入る隙があると思わない?」
茉「はいはい、あんたの腹の黒さには恐れ入るわ」
梨「他人事みたいに言うのね」
瓜二つの幼い見た目をした二人の少女は互いに文句を言い合った。
茉「そうね、今のは良く無かったわ。梨佳、私達は何としてでも元に戻らないといけない。それだけは揺るがない確かな事よ」
梨「そうだね、それが例え知らない誰かを犠牲にする事でも」
決意を固める少女達の目には智琉の姿が映っていた。
続く