1-1話
智「俺にそいつを倒せって、そういう事か?」
徹「そ。お前さんがたまたまこの町に寄ったってのも何かの因果だろうしな」
智琉はかつてレッド・ドラゴンを手にして直後に訪れた町に再びやって来ていた。その町で衆治と初めて会った建物の屋上にて町を仕切る徹との会話をしている中でとある依頼を受けていた。
徹「お前さん、アンノウンを手にしてからどれくらい経つ?」
智「あと数週間くらいで一年になるかな」
徹「一年か、それくらいなら充分か。衆治とこの町を出てってからも色々と経験を積んだんだろ?頼まれちゃくれないか?」
この約一年、智琉はそれまで衆治がやってきた様な保安局が手配する人物の捕縛や撃退などを軽くこなしながら凡ゆる地を一人で巡ってきた。一年前よりも格段にアンノウンの戦闘には慣れてはきたが、智琉は少し回答を渋った。
智「そもそもどんな奴なんだ?徹の手にも負えないくらいヤバい相手なのか?」
徹「そういう訳じゃないが、なんて言うか……」
智「?」
徹の表情からは簡単な話ではない事が薄っすらと伺えた。
徹「そいつってのが一人でいる奴じゃなくてな、組織だって動いてる集団の一員みたいなんだよ」
智「組織の一員?」
徹「そうだ。と言ってもこの町には単身で来たらしいんだけどよ」
未だ疑問が払拭されない智琉は更に質問を重ねた。
智「組織って言うのは……?」
徹「まああれだ。未知の厄災が起きてからこの国の治安も大分荒れてな。取り分け、アンノウンを扱える様な連中は気の合う仲間を集めて挙って反社会的集団の真似事みたいなもんを始めてったんだよ」
智「真似事?」
徹「厄災の直後はあまりの混乱振りにまともに機能する機関なんてほぼ皆無だった。そんな馬鹿騒ぎに便乗した悪ノリ集団が大量に誕生したんだよ、おめでたくもねえ」
徹の言い振りからはあまり危機感を感じさせる様なものは受け取れなかった。
智「聞いてる分にはあんまり危険そうには聞こえないけど……」
徹「そういう集団の大部分は脅威と受け取る程のモンはねえよ。ただ、そうじゃねえのもいんだ」
智「それが今話してる奴の……?」
徹は改まった顔をして智琉に問いた。
徹「智琉、"マスターピース"って集団聞いた事あるか?」
智「……いや、聞いた事無い」
徹の口から聞いた名は智琉にとって初耳であった。
徹「大抵の集団は俺達みたいな独自の自警団でもっても対処、なんなら壊滅だって不可能な話じゃない。現に多くはないが俺達はそういった連中をいくつか潰してきた経験もある。だがこのマスターピースって組織は違う」
マスターピースについて語り出した徹の顔にはいつも見られる飄々とおちゃらけた雰囲気を殆ど感じさせなかった。
徹「厄災の後の困窮したこの国を凡ゆる勢力が好き放題に蹂躙していったが、中でもマスターピースに関しては他に類の無い厄介な点が二つあった。一つは連中の持つアンノウンの力が圧倒的であった事だ。他の勢力に比べてもその差は歴然、およそ六年経った今もその名が流れる程にマスターピースって組織は強力だ」
智琉はそのマスターピースという存在に徐々に興味を示していった。
智「……もう一つは?」
徹「もう一つは連中の行動が屈折した破壊行為に一貫してる所だ」
智「屈折した……?」
徹の表現の仕方に智琉は少し違和感を覚えた。
徹「その頃いた他の勢力の行動理念ってのは自分達の利益の搾取だ。特に誰を狙うとか言った周到な計画は立てない。言い方を変えると誰彼構わず無差別に力を振るう。ただし度の過ぎた破壊、必要以上の悪行には及ばないのがほとんどだ。だがマスターピースの破壊行為は徹底して且つそれは明らかに常軌を逸したレベルに及んでいた」
智「どういう意味だ?」
徹は僅かに眉をひそめながら話を続けた。
徹「連中の力の矛先は例外無しに厄災の傷痕の小さい、或いはその被害を受けてない正常な地域や施設に執拗に向けられた。そしてその破壊行為は情け容赦なんて無い、機能の修復が不可能なレベルに貶められていったそうだ。襲われた場所は文字通り壊滅状態に陥ったって話だ」
智「そこまでしてそいつらは一体何が目的なんだ?」
徹「さあな。ただ並々ならない執念みたいなもんはひしひしと感じたよ」
智琉には未だに徹の語り聞かせるマスターピースという存在の全容やその行動の意図がはっきりと見えて来ないでいた。
徹「まだ謎はある。実はマスターピースの被害報告ってのはちょっと前まで途絶えてたんだよ」
智「……それって?」
徹「厄災発生から一、二年くらいして一旦連中の目立った破壊行為の被害は終息してったんだよ。その事に俺達みたいな奴らは多少胸を撫で下ろしたもんだ。俺自身もマスターピースなんて存在を頭の片隅に追いやろうとしてたくらいにな。だがその沈黙も半年前くらいから破られた」
話を聞いていく内に智琉の頭に一つの疑問が浮かんだ。
智「そんな奴らを保安局は取り締まったり、鎮圧したりとかはしなかったのか?」
そう問われた徹は一呼吸置いてから口を開いた。
徹「……正直、そこが最大の疑問なんだよな」
智「どういう意味だ?」
徹「今の話だけでもマスターピースってのは野放しにしとく理由なんて皆無な程に危険な連中だ。なのにだ、そのマスターピースを保安局は一切取り締まろうとしないんだよ」
智「はあっ!?」
あまりの事に智琉は驚愕の声を荒げた。
智「保安局っていうのはアンノウンを悪用する様な奴らを取り締まる機関だろ?それなのに何もしてこなかったのか?」
徹「そういう事だ。連中の関与している事態に首を突っ込もうとさえしない。保安局側が一方的に避けているのは明白だ」
思いもしなかった事実に智琉の頭は理解が追い付かず困惑が渦巻いた。
智「そんな……どうして……?」
徹「さっぱり分からん。まあお役人ってのはいつの時代も同じだ。面倒事には極力関わろうとはしない」
徹の言葉はどこか諦めにも近い気持ちが見て取れた。
続く
《人物紹介》
織杜 智琉
身長167cm 16歳
嫌いなもの:真夜中の猫の鳴き声
《世界観紹介》
マスターピース:厄災直後に現れた非道行為を繰り返す組織、集団の内の一つ。他の組織と比べても破格の存在を誇っている。