接触5
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本当にありがとうございます。
今回は前回の海岸でのやり取りの信長側視点がメインになります。
ここを終えるとしばらく転移日本側メインに戻る予定ですのでお付き合いいただければ幸いです。
「呼びかけに応じて頂き、ありがとうございます。」
空飛ぶ絡繰りから出てきた男はそう言い、右手を差し出してくる。
確か堺にくる南蛮人がそのような挨拶をしていたのを思い出す。
「失礼しました。」
しかし、こちらが手を差し出す前に男は女から何か言われ、お辞儀に切り替える。
こちらもお辞儀で返し、顔を上げ、彼らの顔を見てみる。
「今回の交渉の責任者を務めることになります。橘と申します。お見知りおきを」
言葉といい、名前といい、服装や絡繰り以外はほぼ日本人の見た目である。
だが、儂の知る限り、日本でこれほどの技術を持つ国に全く覚えがない。
いったいどこの国の者か・・・
「織田信長である。」
「信長様直々にお越し頂きありがとうございます。話し合いに応じて頂けるという話なのですが、残念ながら、もうすぐ日も落ちてしまいます。明日以降に改めて話し合いの場を持てればと考えているのですが、いつのご都合がよろしいでしょうか?」
その言葉に、供についてきた者たちの一人が文句をいう。
「それを決めるのはお館様だ!」
儂はその者の発言を止めさせる。
機嫌が悪い時の儂であれば確かにそう激怒したかもしれない。
しかし、今は冷静に返答を返す。
人を乗せて空を飛ぶなどという芸当ができる奴らである。
我らが知らない武器を持ち歩いている可能性もあるのだ。
岐阜の戦の準備が整うにはまだ時間がかかるであろう。
ならば、出陣前に話だけでも聞いておく必要がある。
「明日の巳の刻頃にこの海岸へ使いを出す。」
「わかりました。それでは、また明日お会いしましょう」
そのように返事をし、相手はまた空を飛ぶ絡繰りに入り、元の船へと戻っていく。
それらが見えなくなった頃には日は落ちはじめていた。
「岐阜城へ戻る。」
そのようにいい、踵を返し、岐阜城を目指す。
馬を飛ばしたおかげで日が落ちきる前に城下に着くことはできた。
やがて岐阜城内に入ると馬を下り、供を呼びつけ、一人に指示をだす。
「明日の夜明けと共に三河の信忠の下へ向かい、兵は置いてでも急いで岐阜城へ戻って来いと伝えろ。」
そう伝えた後、寝室へ向かう。
それから時間が経ち、寝床に入りながらいろいろと考えを巡らせる。
元々話し合いには応じるつもりではあった。
その上で話に出た灰色の巨大船を確認することができれば十分であったのだが、思いがけず人を乗せ空を飛ぶ絡繰りまでみることができた。
普段であれば満足することであろう。
しかし、あの橘という者は、儂の名前を知っているようであった。
ならば、なぜこちらにはあちらの情報がはいってこぬのだ?
人の口に戸は立てられぬという。
もしかすると、南蛮の国の一つなのか?それならば説明がつくが、話をしたことがある宣教師や南蛮商人の話でもまったくというほど、あれだけの巨大な船や空を飛ぶ絡繰りの話は出たことがない。
そもそも、あやつら南蛮人の話しぶりだとまるで自分たちが世界で一番進んだ国であるような自慢ぶりもあった。
様々な可能性が浮かんでは消えていくがどれも確信には至らないず、いつの間にか思考はまどろみ眠りに落ちるのであった。
帰還する輸送ヘリの中、橘達は一息ついていた。
「まさかいきなり織田信長本人が現場に出張ってくるとは。」
「そうですね。この時代の織田はすでに大大名のはず、私も今回のような交渉の前段階の呼びかけにはそれを担当する役職の人が来ると思ってました。それにしても実際の織田信長はあのような姿だったのですね。」
歴史好きな和泉は若干興奮気味なようだ。
「僕は若干緊張しましたよ。機嫌を損ねるような発言をして斬られるんじゃないかと。織田信長といえば、残忍だったという説もありましたし。」
「あくまでも私たちが知っている戦国時代の人物たちは残された資料から推測された人物像ですからね。それに、三英傑といわれる織田信長、豊臣秀吉、徳川家康は後年に発見される新たな資料などの研究の結果、評価が変わることもよくありますし。」
祖父母と孫では同じ人物でも勉強している内容が変わり、全く違う人物像を持っていることも珍しくない。
「とりあえずは、かがに戻ったら交渉のための話し合いには応じてもらえることの報告をしておきましょう。」
そういい、橘は雑談を締めくくる。
かがはもう目の前である。
日は変わり翌朝、護衛艦かがにて身支度を整えた橘と和泉は時計を確認していた。
「確か巳の刻の始まりって午前9時から10時の間でしたか?」
「そのはずです。まぁ、この時代、季節ごとに日の傾きで単位当たりの時間は変動しますし、現代ほど時間きっかりには動いていないはずですので、早かったり遅かったりする可能性もあります。そろそろ出発しておいていいと思いますよ。」
和泉の助言を受けて橘達は輸送ヘリコプターに乗り込み、昨日着地したポイントへ向かう。
しかし、海岸には昨日よりも野次馬が集まっている。
大方、昨日のやり取りやヘリコプターを見ていた民間人が村の人間にも話したのであろう。
昨日と同じように拡声器で注意を呼びかけ、空いたスぺースにゆっくりと着地していく。
それからしばらくして、昨日の集団の一人が馬に乗り現れる。
昨日言っていた案内役であろう。
ヘリから降り挨拶をする。
「おはようございます。本日はよろしくお願いします。」
「お館様は美濃の岐阜城でお会いになられる。ついてこい。」
案内役に促され、橘達はついていく。
連れていかれた先には馬が用意されていた。
橘も和泉も外交の一環として動物での移動を経験している。
自衛隊の隊員も今回は馬での移動を考慮し、乗馬経験者を選んである。
皆、特に問題もなく馬にまたがり、1時間ほど馬を走らせ岐阜城西城門にたどり着いたのであった。
戦闘描写まではもう少しかかりそうです。
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