接触1
とりあえずですが、旧日本と日本の距離は最短で300㎞ほどを想定しています。
舞鶴から出航した「護衛艦かが」は北東を目指し進んでいた。
予定では伊勢湾から尾張沖に進入し、拡声器にて呼び掛けた後、護衛官を伴って輸送ヘリコプターで上陸予定であり、現在は船内では最終確認が行われている。
最初は信長が貿易の要所として押さえている大阪、堺を上陸交渉地点にという案もでたが、喫水が足りないことに変わりはなく、また、すでにヨーロッパからポルトガルやスペイン、イギリス、オランダと日本に訪れている時期である。
貿易商人と宣教師が出入りしているであろうこともあって、堺で日本の護衛艦を晒すのには問題があるとして却下された。
「今現在、清州城は信長が城主ではなく息子の信忠か城主についているか、または番城の可能性もあるかもしれませんね。」
外務省職員の和泉がそう告げる。
比叡山の焼き討ちが行われた後だと考えると信長の居城は岐阜城である。だが、安土城の築城が始まってすらいない現状をみると俗にいう信長包囲網の最中の可能性が高い。
たとえ城主が定められていたとしても戦乱の世の中では手勢や軍団を率いて出陣しており、城主不在の可能性も否定できない。
何分この時代は同じ事柄でも研究チームによって主張する年代に数年から下手をすれば10年以上の開きがある場合もあり、不確定要素の完全排除は難しい。
「今回は仮に混乱なく上陸できても移動は徒歩か馬になると思いますのでよろしくお願いします。」
護衛として随行する予定の自衛官がそう語る。
輸送車を海岸に降ろすことができたとしても、其の後の交渉次第では一時撤退もありうる。
その場合、回収が難しくなる可能性を考えると、不用意に輸送車は降ろすことができないという結論に至った。
「万が一、不測の事態が発生した場合が自分たちがお守りしますのでご安心ください。」
「では、連絡事項は以上になります。あと2時間ほどですがお二人は船室でお休みください。」
そう告げられ、ブリーフィングは終了した。
橘と泉はそれぞれ自分割り当てられた船室へ入る。
手持無沙汰になった橘は座りながら数日前に行われた計画立案の会議を思い出していた。
今回の目的は同盟締結であるが、より重要視されるのは1勢力による早期の旧日本統一である。
今後の世界情勢を見据えた場合、早い段階で旧日本全体としての国力増強が同盟相手として求められる絶対条件なのである。
そのためには、自衛隊を動員しての武力支援も想定されている。
もし、同盟締結を断られた場合、逆に自衛隊による武力統一の可能性も示唆されている。
その場合は、今回同乗している自衛隊で尾張の海岸に橋頭保を築き、輸送艦で自衛隊を輸送、上陸させる手はずになっている。
上陸が難しい場合は一時撤退の後、京都御所を空挺で強襲、帝を奪取後、勅許を仰ぎ、または勅旨を賜り、自衛隊を神の尖兵として旧日本の武力統一を行う案も提言されている。
他にも他有力武将との接触も計画に上がっているが、今現在の正式な年月日が特定できていない以上、現実的ではないとして、計画の優先順位が低い。
なにより、後の歴史を考えた場合、有力な武将が近畿から関東に固まっている状態であるため、やることはあまり変わらない。
信長の後の接触という点においては相手が憤慨する可能性があるが・・・・
どちらにしろ、農地改革や医療品の提供など、市井の生活の改善を行うためにはある程度落ち着いている地域でなければ難しい。
いろいろと思考を巡らせている橘を他所に、時間は過ぎていく。
三河の国、渥美半島の太平洋側の小さな漁村、この地ではひと月ほど前から奇妙な噂が流れるようになっていた。
曰く、夜中に南東の空を眺めるとほんのりと空が明るく照らされていることがあるというのである。
最近では何か凶事の前触れではないかということで村を捨てて出ていくものもあれば、吉兆の前触れとして少しでもあやかろうと村に住みつこうとするものもいる。
また、最近は釣れる魚の種類や量が微妙に変化してきていた。
実は三河の国以外の太平洋側に位置する漁村や漁師町でも同様の噂話がなされるようになっているのだが、彼らがそれを知る由もない。
長く続く戦乱の世に市井の民は疲れ切っていた。
戦に巻き込まれて村を焼かれたもの。
食料の徴発といい田畑を荒らされ村を捨てざるを得ない状態になったもの。
民からすればすべて殿様の気まぐれで行われ、自分達が苦しむことになっているのと変わらない。
ゆえに、その不思議な現象は捉えるものによってより悪いことが、または今より良いことが起こる前兆ではないのかという心理に繋がっていた。
その日も漁師を生業として生計を立てていた太郎は、日の出と共に沖合へでており小舟から釣り糸を垂らしていた。
採れた魚を売りに町まで出かけることもあるが、そこで聞こえてくるのは三河の殿様も最近は戦ばかりだということだ。
まだ戦乱の世は続くのかと考えながらふと視線を上げると遠くに灰色の小島が視界に入った。
「あんな場所にあんな島あったか?」
そう思いながら目を凝らしよくみると動いている。
やがて灰色の小島が遠くに見える亀島の手前を横切っていく。
亀島と比較したとしてもかなりでかい。さらにとても早く動いている。
それらを見ていた太郎はふと、最近噂になっていることを思い出した。
最近、夜中に南東の空が明るく見えることがあると。
何か良くないことが起こる。そう感じた太郎は竿をしまい、今見たことを村へ伝えようと必死に船の櫂を漕ぎ出した。
必死にこぐ太郎であったが、途中振り返り見てみると、灰色の島は湾の奥、尾張の方へと消えていくところであった。
作中でも明言していますが、この時代、すでにヨーロッパの貿易商人や宣教師は日本国内を独自に移動しております。ですので、それらの人物に全く見られずに事を運ぶのはむずかしいかもしれません。ただ、一人が見ただけだと、たとえ本国に連絡しても信じてもらえるかどうか・・・
感想、誤字脱字報告待ってます。