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私と深雪 1
放課後誰かに呼ばれたような気がして教室に向かった。夕暮れ時、運動部の掛け声が止み、ガラリとした教室の間を通り抜け、(1ー2)と、書かれた教室のドアを開ける。そこには既に深雪がいた。彼女は大抵この時間にいる。読みかけの本を片手に持ち視線は空中を泳いでいた。
「美香、部活帰り?」
深雪は興味なさそうに言った。
「なにをしてるの。」
私は訊ねて深雪の隣の席に座る。
「私の質問にまずは答えて」
深雪は怒ったように聞いてきた。
「あー、ごめん、そう、部活帰りよ」
「で、なにしてたの」
「考えごとよ」
「どんな」
深雪は視線を下に落としながら考えて、答えた。
「人生は地獄に落ちるより天にのぼるほうが難しいのかしら」
「まあ、そうなんじゃない」
「それだけ?」
「それだけって、なによ私にしてはなかなかの考えごとよ」
深雪が考えごとをしているなんて珍しいので聞いてみたのだがどうでもいい話だった。だからと言って全く意味のない話でもないのだろう。
「深雪がそれほど考えごとをしてるということは何か思い当たることでもあったの」
「よくわかったわね」
深雪は少しくちびるを尖らせた。