裸の女騎士は愚か者には見えない鎧を着ているので、いかなるダメージも痛くない……はず
あるところに、女騎士がおりました。
女騎士は誰よりも強く美しく、しかし厳しいと評判で、その強さに皆が憧れはするものの、とても近寄りがたい存在でした。
ある日、女騎士が広場で朝の稽古に励んでいると、どこからともなく胡散臭い男が現れました。
「私は仕立屋でございます。貴女様に居合う軽い鎧を作って差し上げましょう」
女騎士は、重い鎧より軽い鎧の方が良いと重い、仕立屋に鎧を作らせました。
そして次の日。
「女騎士様、出来まして御座います」
そう言って仕立屋は鞄から何かを取り出しましたが、女騎士には何も見えませんでした。
「これは『愚か者には見えぬ鎧』でございます。聡明で美しく逞しい貴女様にぴったりな逸品です」
女騎士はとにかく褒められ慣れておりませんので、仕立屋の言う事を信じてしまいました。
「おお! まさにピッタリ! 素晴らしくよく似合いますぞ!」
鎧を着た女騎士を、仕立屋はやたらと褒め称えます。そして、新しい鎧を試すために、広場の衛兵と試合をすることにしました。
「女騎士様! その格好は──!?」
「安心せい、愚か者には見えない鎧だ。貴様、さてはこれが見えぬのだな?」
「いえ! ちゃ、ちゃんと見えております!」
「本当か? ならば、もし私に勝てたら、何でも言う事を聞いてやるぞ!」
衛兵は戸惑いましたが、真剣な眼差しの女騎士に圧され、仕方なく試合をしました。
新しい鎧は、まるで何も着ていないように軽く、女騎士は素早く衛兵に打ち込みます。
「これは良い。とても身軽に動けるぞ」
「隙あり!」
衛兵の一撃が女騎士の胴に当たりました。すると、女騎士はその場に蹲り、涙を堪えました。
「お腹……痛い……!!」
何とか立ち上がるも、膝が笑っており、木刀を握るのもやっとのことでした。
「……こ、来い!!」
女騎士が声を発しますが先ほどの一撃でほぼ限界でした。
「お覚悟ー!」
衛兵が女騎士の胴に鋭い突きを放つと、あまりの激痛に女騎士は意識を失い、その場に倒れてしまいました。
「私の勝ちですね」
衛兵は女騎士を抱き抱えました。そして仕立屋にコインを一枚渡しました。
「上手くいったら、飯奢れよ」
「おう」
衛兵は看護室へと向かいます。
女騎士が目を覚ますと、そこはベッドの上でした。
二度も痛手を受けた腹部が痛み、女騎士は自らの敗北を悟りました。
「目が覚めましたか」
衛兵が女騎士に話し掛けました。
「貴女様は真っ直ぐ過ぎる。それは愚直とも言っていいほどに。だから騙されるのです。この間も、貧しい子ども達の為にと怪しい男に全財産を渡してしまったではありませんか」
「……返す言葉も無い」
女騎士は項垂れました。衛兵は少し目線をちらつかせ、咳払いを一つしました。
「そ、そう言えば、私が勝ったら何でも言う事を聞いて頂けると…………」
「そうだな。何でもいいぞ」
その言葉に、衛兵は全身の熱が込み上げてくるのを感じました。
「ならば私と付き合っては頂けませんか?」
「……なんだと?」
衛兵の言葉に。女騎士は耳を疑いました。
「私はずっとあの広場で稽古に励む貴女様を見て、お慕いしておりましたのです」
「──ふぁっ!?」
女騎士の口から思わず変な声が漏れました。
「貴女様の事が好きなのです!」
女騎士の顔が著しく赤く染まります。
「お願い致します!!」
衛兵は頭を下げました。
それはとてもとても小さな声が聞こえました。
「お、お友達からぁぁ!!」
女騎士は顔を赤くしたまま、看護室を飛び出してしまいました。
「いだい! お腹痛いぃぃ……!!」
しかし直ぐに蹲り、再び衛兵に抱き抱えられ、ベッドへと戻されました。
「ん、んほぉ…………」
女騎士は恥ずかしそうに、ベッドの中に籠もってしまいました。
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(*´д`*)