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政略結婚


 結婚することは決まったものの、移り気ですでに側室を何人も抱え、娘も何人もいる男のところに嫁に行くのはあまり楽しいことではなかった。しかもすでに何年も前から他の女に骨抜きになって言いなりになっていると評判の男だ。なんという相手だろう。


 「あなたがそんな風では義政殿も興ざめしてしまいますよ。せっかく若く美しい御台所を迎えるのを楽しみにしているのだから」


 私が楽しそうにしていないのを見ると、叔母や兄にこう諭されてしまった。

 女としては今の世で最高の立場に立つのだから、喜ばしいのだろう。日野家に生まれた以上将軍の御台所になるのは運命のようなものであるし、覚悟を決めなければ。そう思って、婚礼の準備を自ら手伝い、日野家の寺である法界寺にお参りし、御台所となり立派に男児を産めるよう、祈りをささげてきた。そんな私のところにまた気持ちを暗くさせる知らせがあったのだ。


 「義政様がまた側室を迎えられた?今参局のお勧めで?わたしがもうすぐ輿入れするというのに?」


 叔母様からその事実を伝えられ、私は驚くとともにせっかく高揚させてきた気持ちがすうっと冷めていくのを感じた。思わず真顔になってしまっていたのだろう、叔母様は私を慰めようとした。


 「義政殿は幼いころから面倒を見てもらっていたお今に逆らえないのです。しかし案ずることはありません。あなたの方がずっと美しい。あのような女に負けてはいませんよ」


 本当は叔母様の方が悔しいのだろう、忌々し気に顔をゆがめていた。叔母様が腹を痛めて産んだ子供だというのに、義政様は叔母様より今参局の言うことを優先させるようだ。それもそのはずで、義政様は生まれて間もなく出家したため叔母様はあまりかかわりのない子供だったようだ。その代わりとなったのが乳母で現在は側室となっている今参局で、おしめの世話から閨の指導まで彼女がしたらしい。今も義政様は今参局に首ったけなのだから彼女の手管も相当なものだ。だが若さでは私にかなわないと思って、自分の手下の若い側室を義政様にあてがうことにして、私に対抗することにしたらしい。どうやら今参局は私と戦う気満々のようだ。

 私はすでに始まっているらしい女の戦いにげんなりした気分でいた。なぜあまり好意を持てない男をめぐって愛を得るための戦いをしなくてはならないのだろう。私にしてみれば将軍に嫁ぐのは日野家に生まれた女子としての義務のようなものだというのに。


 こうして迎えた婚儀の日は暑さの残るものの、天候の良い日だった。私は正装である十二単に着替え、乳母や侍女と共に輿に乗って日野家を出立した。義政様の住む烏丸御所につくと、女官に案内され、祝言の儀式の行われる部屋についた。そこで杯を交わし、儀式は滞りなく終了した。

 儀式が終わると祝いの宴会が催された。そこで私は将軍の部下たちに初めてお目見えした。私は代表の者の祝いの言葉を義政様と並んで受けた。意外なことに義政様は終始上機嫌だった。私には淡々と婚儀が進められているようにしか思えないのだが、何か良いことでもあったのだろうか?

 夜になって婚儀の関する行事が終わり、私は晴れ着を脱ぎ、小袖だけの姿になっていた。とうとう義政様と二人だけになったのだ。しかしほとんど面識のない相手と二人で一体何を話してよいかもわからない。うっかり叔母様から聞いた側室たちのことなど話してしまいそうだ。いくらなんでもそれは空気が悪くなりそうだったので、私は黙って控えていた。


 「そなたは美しいな」


 変わらず上機嫌な様子で義政様は言った。


 「そなたが若々しく美しいので皆驚いていた。政略結婚だと、どんな不細工な女でも文句は言えないからな。皆羨ましがっていたぞ」


 ……この人は本気で言っているのだろうか?私は公家の娘だし、年齢も年ごろであるから若さや容姿を褒められことは多い。まあ身分の高い娘に不細工などと罵る輩はそういないだろう。だから額面どおりには受け取っていない。まあ半分くらいは社交辞令だろう。時々本気の人間もいるかな?くらいに思っている。私の容姿はまあ整った方ではあるし、顔の好みなど人それぞれだろうから。……そんなものを真に受けているとはこの方は大丈夫なのだろうか?素直と言うか、なんと言うか。


 「まあ……ありがとうございます。そんなに褒めていただけるなんて、光栄です。皆さまが上手に私を着飾って下さったのでその甲斐があったのでしょう」


 本音を言うと空気が悪くなりそうなので、私は当り障りのなさそうな返事をした。そしてその答えが気に入ったのか、義政様は終始上機嫌なまま私との初夜を過ごしたのだった。





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