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王子の思い

「ナタリア、君に見せたいものがあるんだ」

「なに?」

 心地よいトーンで、会話は続く。

「もう少しこの森を歩くと見えてくるよ」

「楽しみだわ」

 フォリンは飛べばすぐなのにというように私たちの前を行き軽く旋回して見せた。

「歩くのも楽しいのよ。フォリン」

「このくらいなら食後の散歩にはちょうどいい距離だからね」

「おっとと」

 石につまずく私を彼が受け止めてくれる。

「ありがとう」

「いいんだ」

 そうして二人と一匹は森の一本道を進む。暖かな日差しは木々を通り抜け、上着を脱いでもよいくらいに日が出ている。もっと進むと、遠くに爽やかなブルーが見え始めた。

「あそこだよ」

「とってもきれい」

「近くに行くともっときれいさ」

 彼は私の手をしっかり握って走り出す。アイボリーのシフォンワンピースが元気よく弾み、とうとう花の近くに着いた。

「すごいわ」

「いつか君に見せたかった」

 そう言うと一輪花を摘み、私の髪にそっと挿す。

「とてもよく似合ってる」

「ありがとう」

 フォリンは花を潰さないように、花畑の外側でお座りをしていた。私たちはどんどん花の中に入っていく。

「覚えてるかい? 最初、僕たちが会ったときのこと」

「覚えているわ。城下でおばあちゃんと薬草を売っていたときよね」

「そうそう」

「あの時はエデンさんがお兄さんの薬を買いに来てくれた」

「後で父にこっぴどく叱られたよ」

「だってまだ八歳でしょう? お父様も心配だったと思うわ」

「でも僕は行ってよかった」

 彼の兄が今でも健在なのは、彼のおかげなのだ。

「私、一目見てあなたが好きになった」

「ああ、僕も驚いたよ。四歳の女の子に慕ってもらえるなんて」

「それからお城にもよく遊びに行かせてもらったわね」

「父は小さな女の子だと思って油断したんだろうね」

「エデンさんはいつから私のこと好きになったの?」

「うーん、そうだな。君が十歳のときかな」

「どうして? それまでは私が結婚したいって言っても笑ってたじゃない」

「言わなきゃ、だめかな?」

「知りたい」

 足を止め、岩に腰をおろす。エデンさんは空を仰ぎ懐かしむ表情をした。

「君が髪をアップにして、正装したとき、あっただろう?」

「あぁ、お手伝いさんたちが着せてくれたときね」

「そう。彼女たちは着せ替え人形のように色々と着せて遊んでいたね」

「ええ、色々着せてもらったわ。本当に楽しかった」

「あの時、初めて君が大人の女性に見えたんだ」

 そう語る顔は少し赤い。

「それだけ?」

 にやにやしてその顔を覗きこむと、私の頭に優しく手が乗った。

「今までずっと妹だと思っていた子が、急にそう見られなくなったんだ。かなりの変化だろ」

 ぼそっと言う彼に私のにやにやは止まらない。

「それであのドレス、買ってくれたんだ?」

「それが一番似合ってたからね」

「ありがとう」

「本当はその時買い取りたかったんだけど、大人のサイズしかなくて」

「覚えてるわ。あの時着せてもらったときもぶかぶかだったもの」

「大人になった君に着てほしいと思ったんだよ。だから十二歳の誕生日のときプレゼントした」

「本当に嬉しかった。花束を持って、結婚しようって」

「君は……笑いながら泣いてたね」

 その時の情景がありありと思い浮かんだ。

「だって、エデンさんモテるし、私には興味ないんだって諦めてたから」

「まぁ、兄より僕の方が手を出しやすいんじゃないかな。王位継承権一位の男は気が引けるだろ」

「それもあるかもしれないけれど、エデンさんは気さくな方だから周りは勘違いしちゃうのよ」

「そうか?」

「そうよ。町へ遊びに行ったときもエデンさんは色んな人とお話してたし」

「僕はただこういう家に生まれたってだけだからね。他の人と何も変わらないさ」

「そういうところ、大好き」

 ぎゅっと抱き着くと慌てながらも抱き留めてくれる。

「ねぇナタリア、顔を上げて」

「なあに」

「これを受け取ってくれないか」

 彼が取り出したのは、小さな花が繋がったシルバーリングだった。

「こんな高価なもの……」

「君に受け取ってほしいんだ。受け取ってくれるかい?」

「私にはもったいないくらい素敵。本当にありがとう」

 少し迷って恐る恐る左手を差し出す。

「正解」

 ぽんと再び頭の上に手が乗って、彼は嬉しそうにリングをはめてくれた。


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