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刻まれた愛

「ナタリア」

「はい」

 真剣な彼の表情にたじろぐ。

「昨晩、父と話をしたよ」

「うそ?!」

「本当さ。僕は幸い次男だから、結婚に強い縛りをつけるつもりはないって言われた」

「よかった」

「でも……」

「でも?」

「ナタリアの話をしたら、貴族の娘以上じゃないとだめだって言われてしまったんだ」

 ふいにフォリンは青い涙を流した。

「何となくわかってたけど、辛いね」

 さらり、と一筋のしずくがつたう。エデンさんは拳を膝に押し付け、そして、まっすぐ私を見た。

「ナタリア、僕と逃げ出そう」

 輝くような、恐ろしいような、言葉だ。

「どこへ?」

「奥森で家を作って、ひっそりと暮らそう」

「そんなの、難しいよ」

「大丈夫、僕が計画をいくつか立てたんだ」

 そう言ってエデンさんは茶色の革かばんから紙を取り出した。気になって身を乗り出す。まさにその時。木のドアが開き、祖母はバケットいっぱいの薬草を持って戻ってきたのだ。

「奥森に行くつもりですか。エデン様」

 珍しく少し早口になっている。

「そうです。あそこなら滅多に人が来ない」

「奥森に行ってはだめ!」

 初めて聞いた強い口調に慄く。ドアの隙間からは冷たい風が吹き抜けた。

「その子の実母の願いだよ」

 本当の、お母さん? もらい子なのは知ってはいたが、出生については何も知らされていなかった。

「どういうこと?」

 私が口を挟むと、しまったという表情をした。それでも渋々口を開いてくれる。

「……ナタリアは奥森の近くに捨てられていたんだ。湖のほとりに船がつけてあってね。その船の中にぐったりした小さな子と一緒に一枚の紙が入っていた」

『この子の命を守るために、手放します。奥森には近寄らせないと約束の出来る方へ』

「そう記してあったんだ」

「え、じゃあフォリンは? いつから私と一緒なの?」

 フォリンは私の顔を見上げている。

「船に近づいた時、フォリンは私たちを威嚇した。私たちと出会うずっと前から、一緒だよ」

「知らなかった……」

 ふと横を見ると、エデンさんも真剣な眼差しで話を聞いていた。

「奥森には近寄らない方がいい。あそこは昔から人が住まないんだ」

「そういう土地だとは知りませんでした」

 エデンさんが落ち着いた声で言う。

「だから、奥森だけは何があっても行ってはいけないよ。彼女の母親もそれを望んでいるんだ」

 祖母の強い視線に何も言えなくなる。けれど、本当のお母さんは私を愛してくれていた。その思いがじんわりと広がっていくのも確かだった。


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