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冷たい夕食

「エデン様、お夕食の準備が整いました」

 最年長の使用人がゆっくりと扉を開けた。

「あぁ、ありがとう。ナタリアの分も用意してくれたね?」

「はい……ですが、本当によろしいのですか」

 困り顔でエデンさんと私の方を見る。

「一人で食べても美味しくないだろう」

「しかし……」

「さがってくれ」

 その声に背の低い彼女はさらに縮こまった。

「失礼いたしました」

「食事、ありがとう」

 最後に安心した笑顔を見せると、たどたどしい足取りで帰っていく。私たちは目を見合わせて笑う。

「ばあやは小さい頃からいるから、使用人の中で一番つっかかってくる」

「でも、大好きなのでしょう?」

「あぁ。僕にはおばあちゃんがいないから、彼女がそうだと思ってるよ」

 彼は思い出したように微笑む。彼女が運んできたワゴンから皿を取り、二人でテーブルに並べた。

「いただきます」

 同時に手を合わせて食べ始める。結局、スープに混ぜるはずだったプリコの葉は採ってこられなかった。ポタージュスープを口に運びながら彼女の顔が蘇る。すっかり冷めていて、口の中に嫌に残った。そういえばエデンさんは温かいご飯を食べていないんだよね……。彼の大好物のハンバーグも、熱々なわけがなく、豪華な金縁の皿もメッキが剥がれたように感じられた。

「ナタリア」

 ふと我に返る。

「は、はい!」

「そんなにびくびくしなくていい。外から帰ってきてから変だぞ」

 不覚にもドキッとしてしまう。

「へ?」

 どんなにだらしがない声が出ただろうか。エデンさんは吹き出すように笑った。

「さっきから神妙な顔してるから何かあったのかと思うだろ。それをそんな……もういい」

 そう言いつつ腹を抱えている。

「もう、笑わないでくださいよ」

「それはいくらなんでも酷だろ」

 彼はまだ肩を震わせていた。空になった皿が増える度、今日の出来事を言おうか迷う。今言っても信じてもらえないだろうか。当事者でさえあんなに華奢な女性が起こしたこととは思えないのだから。迷っているうちに彼は食器を重ね始めた。

「あ、私やります」

 急いで最後の一口を放り込む。

「このくらい自分でできる」

 あ、前の彼みたいだ。そう思うと懐かしくなって、目元が熱くなった。

「エデンさん……」

 思い出して。私のこと。全部思い出してください。祈るような気持ちで綺麗なブルーの目を見つめる。すると、彼は手を止めてこちらを向いた。

「ナタリア……」

 甘い響きを持って呼ばれた名前だったが、彼は思い出していないようだった。


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