前編 マイナー動物を登場人物にして、突っ込みどころ満載の小説を書いたことはありませんか
正確なところは覚えていないのだが、小学二年生のころには、すでに「お話」を書いていた。
「小説もどき」といってもいいかもしれない。
小学校に入るころには、自分が要領が悪く、不器用で、冴えない子どもだと分かっていたので、早くから自分だけの世界を作っていた。夢の世界では自分にかっこいい味方がいて、最強の女の子にルリーという名前をつけ、毎日毎日いろんな空想をしていた。
そんなところから、やがてお話し作りが始まったと記憶している。
最初に書いたお話は、家で飼っているセキセイインコのリリとララをモデルにした『リリちゃんとララちゃん』という題だった。ついでに、リリは名前をつけてからオスであることが判明したが。
その二匹や周りの小鳥たちの話を、鉛筆を使ってつたない字で書き綴った。自分で本の形にしなくちゃと考え、画用紙を二つ折りにしてセロテープでつなぎ合わせ、ページ番号を振った。時々鳥の絵を描いたページも作った。
小さい私は本屋に行くと、何巻にもわたる小説が置かれているのを見つけてとても憧れた。
自分も長い物語が書きたい。そう思って、リリちゃんとララちゃんの孫をルリーにして、孫の代まで書くんだと決めたものだ。さすがにそこまで行きつく前に飽きてしまったが。
他にも、『白鳥のたび』という結構大変そうな旅をする話や、漫画でにわとりの話を描いたりした。
ちなみに、両親の古いカセットテープに、リリちゃんとララちゃんの「たこあげ大会の巻」を自分で朗読したのが入っているのを見つけたことがある。
それにしても、ここまでキャラクターはすべて鳥。鳥が凧揚げって、一体どうするんだろうか……。
小学三年生では、『ヘチマの実 大きな実』というお話を書いた。やっと鳥の話でなくなったが、今度は学校で栽培していたヘチマが出てくるとは、もっと変だと自分でも思う。
当時は団地の五階に住んでいた。もしもこの上から下までの高さのヘチマができたら、という発想だった。
主人公のるり子さんは植物が好きで、ヘチマを育てる。すると、5階から1階まであるような大きな実ができて、それが……歩きもするし、しゃべりもするという。それで、るり子さんはヘチマを見つからないように隠して、周りに柵を造る、というとこまで書いた記憶がある。
何だか奇妙な話だ。一体全体、どうやってこんなでかい物を人に見つからずに隠すことができるのやら。植物がしゃべるのならまだ分かるが、実の方がしゃべるというのも、どうにも微妙な設定である。
もう一つ不思議なのは、巨大なヘチマがベランダから伸びているのを見たときの、るり子さんのお母さんの反応。
「うちが一階や二階じゃなくて、五階でよかったわ」
……本当に突っ込みどころだらけな話だった。
その後、しばらく何も書かなかったが、小学五年生の時に漫画や物語を書いて見せ合うという友達ができた。
そこで描いた漫画が、またしても鳥になってしまった。『鳥かごの世界と森の世界』という題。クリルという男の子とラリアという女の子(注:どちらも鳥)が主人公で、森に出て楽しく暮らしていくお話だった。
覚えているのは、消えたダイヤの指輪を捜すお話。これ、犯人はゴキブリだったのだ。足に引っ掛けて持って行っちゃったという……。
他には「雨の日を楽しく」とかいう題で、学校の校庭にみんなで雨よけの屋根を造るという話もあったかと。最終回は、小さい時のアルバムを見つけて回想に浸るという、小学生にしては年寄りじみたエンディングだった。
小学六年生のときは、何と毛虫が主人公の漫画『ななしのごんべの旅』というのを描き始めた。
毛虫の「ごんべ君」が「のすけ君」などの友だちを作ったり、冬に備えて食料を蓄えたり、旅に出たり、という話だったが途中までしか描けなかった(毛虫が主人公で完結する方がどうかと思う)。
あとは四コマ漫画で『青空ちゃんと緑ちゃん』という、ある緑の丘で、その上の「空」と「緑」が会話するという微妙なファンタジーを描いたりした。
更に『海のかにと山のかに』という、かに同士が些細なことからけんかとなり、やがて大規模な戦争になり、結局みんな疲れ果てて仲良くなることにした、というストーリーを書いた。
原稿用紙で50枚くらいはあったようだが、一応私が初めて完成させた小説もどきっぽい小説だ。
私の父が転勤となり、引っ越しで友達と別れるときに、彼女の漫画とこの小説を交換して別れた。
それにつけても、鳥も鳥だが、どうしてこうもみんな出てくるものがマイナーな動物だったのだろうか。
かに? 毛虫? あれ、植物もあったっけ。いや、植物は全部の登場人物がそうではなかったけど(そうだったらもっと恐ろしい)。
ちなみに友人の漫画は猫だった。私だけが変なのかなと疑問だ。
もしも子どものころ、マイナーな動物などの登場人物で、しかも突っ込みどころ満載のお話を書いていた、というかたがいらしたら、ぜひとも教えていただきたい。
中学では、友人二人と<まじっくる>という創作グループを作って、一緒に小説を書こうとした。
この頃は学園物などのジャンルが中心だったが(もちろん、この頃になるとちゃんと人間が登場人物で書いている)、それだけだと物足りなくて、学園物で活躍していた主人公に謎めいたところがあり、実は他の星から来た魔法使いだったとか、無茶苦茶な設定があったりした。
しかしながら、なかなかまとまったものが書けないまま、高校受験に巻き込まれていったのだった。
高校入学後は、新井素子さんの『星へ行く船』シリーズにものすごくはまってしまい、「あたし」の一人称でちょっとファンタジーっぽい物やSFっぽいものを書いたりしていた。
未来にタイムスリップする『34世紀の世界』とか、別世界に行く『もも色のドア』とか、魔法使いの女の子が弱小部活を助ける『魔法使いのミュルラ』とか。それでも、なかなか完成することもなく、そのうちひょんなことからいじめに遭って、うつ病に。その頃書いたものはほとんど夢と現実の区別がつかなくなる、という話ばかりで……今考えるとちょっと怖い。
大学に入学してからも、少しずつ書いてはいるものの、完成できるのはショートショートくらい。あとは、シリーズ物の好きな部分だけとか、途中でやめてしまうとか、きちんと最後まで書くことができない状態だった。
そんなある日、バイトのため電車に乗ったところで突然、物語が降ってきた。
電車から降りるまでのたったの二十分間で、長いストーリーが全部できているらしい、と分かった。家に帰って紙に書き出してみると、ストーリーだけでなく、タイトル、登場人物の名前、最初の一文、いくつもの場面、最後の一文、章立てなどなど、全部嘘のように出来上がってしまった。
すぐに書き始め、生まれて初めて「飛ぶように小説が書ける」という体験をした。書いている間だけでなく、日中も世界中がキラキラ輝いて見えるくらい楽しかった。書き上がったら、原稿用紙で194枚あった。
これまで長い物を最初から最後まで書けたのは、小六の『海のかにと山のかに』くらいなものだ。かなり嬉しい体験だった。
これをきっかけに、もっと真剣に書くことを考えようと思った。
ちょうどその頃に学内で、小説や漫画を書いている友達ができた。
その友人が言うには、小説家や漫画家になるなら、今が一番のチャンス。社会人になると忙しくて諦めてしまう人も多い、とのこと。
そこで、小説やエッセイなど、まずは短いものを書いて、投稿することを始めた。短いながらも、少しずつ完成できるようになった。
当時の私はまだ手書きで、原稿用紙を使い、郵送で投稿するしか手段がなかった。何度も書き直し、字を一つ一つ丁寧に書いて、やっとの思いで投稿していた。
しかしながら、まるで結果が出なかった。
投稿したものが掲載されるどころか、名前や題名が載ることさえ全くない。もしかして、郵送中に事故に遭い、応募されなかったんじゃないか。そんな疑問さえ浮かぶようになった。
もちろん、あり得ないことだと頭では分かっていた。それでも、自分が書いた原稿、あのものすごく苦労して作った応募作が読まれたかどうかも分からない。コピーしたとしても、本物は返却されることもないため、二度と帰ってこない。本当にそれがあったのかどうかさえ分からなくなってしまうのだった……。
あるとき、漫画家を目指している友人に「そのうちこんな小説を書いてみたいと思っているんだ」と長編のだいたいのあらすじやテーマ、設定などをまとめたものを見てもらった。
すると「テーマとかよく分かるんだけど、これ、書けないでしょ」「えっ」「こんな難しいの、プロじゃないと無理でしょ」と言われてしまった。それでしょげてしまったこともある。
ついでに、文芸部に所属していた知り合いに、前述の194枚を読んでもらった。
「うーん、言いたいことは理解できるんだけど、どうなっているのかよく分からない場面がいろいろあって。登場人物とかもどんな感じの人なのか書いてなかったりするし。あらすじみたいなところもあるよね」
……どうやら、楽しかったのは私だけだったようだ。
もともと自分に自信がなかったので、更に自信をなくし、消えてしまう自分の作品が空しくて、だんだん投稿しなくなってしまった。それで、私の投稿時代は終わったかに見えた。
ところが、小説投稿サイトが現れたため、ここで終了とはならなかったのだ。
実は、書く楽しさを時々味わっている今、あの194枚の感覚も決して忘れ去ることはない。
このような自分語りをお読みいただきまして、誠にありがとうございました。
繰り返しますが、もしも子どものころ、このような突っ込みどころ満載のお話を書いていた、というかたがいらしたら、ぜひ教えてください。よろしくお願いします。私だけだったら、とても恥ずかしいです……。