称号スキル〖笑うムチ〗
まずい...
これは私のミスだ。
私がミアさんより早く行動できていれば何とかなったかもしれない...
私はフローリーを、帝国貴族を少し甘く見ていた。
ミアさんはその緑色の瞳からゆっくりと涙を流し、数歩下がった所で無言のまま跪いた。
「平民風情が我々帝国貴族の前で涙を流すとは、汚らわしい!」
フローリーさんはそう叫ぶと、何処からか取り出した真っ赤なムチを無防備なミアさんに構えた。フローリーさんの攻撃力はそれなりに高い。いくらミアさんがそれなりに強いからといって〖笑うムチ〗の効果がまともに出てしまう今、ただじゃ済まないでしょうね。
【称号スキル〖笑うムチ:Lv--〗残虐非道なムチ使いに与えられる称号スキル。無抵抗な人間に対するムチの攻撃力を(+10%)上げることができる。このスキルを手にしたものは、そのムチで人間の首を落とし、内臓を潰したという。】
わかってるよ鑑定さん!!
だから焦ってる。
フローリーの目の前で跪いてるミアさんは十分に『無抵抗な人間』の部類にはいる。それに加えてまだ調べてない不気味なスキルもある。最悪の場合一撃で首が消し飛ばされる可能性だってある。
あぁ!不確定要素はなくしとくんだった!!!
フローリーはそのムチを構えたまま、ミアさんの首の隣に立ち、不気味な笑みを浮かべていた。
次の瞬間、彼女はそのムチを振りかぶった。
「高貴なる我らの邪魔をした愚かな己を地獄で恨みなさい。」
ちょっと待って!!本気でここでやる気なの!?どうやら私はフローリーを、帝国貴族を甘く見てたみたいね...
「待って、フローリーさん!」
私はそう叫びながら彼女の方へと駆け寄った。
「〖首切り〗!!!」
が、そんな私の声は怒りのまま動くフローリーさんに届くはずもなく、彼女は勢い良く振りかぶったムチを彼女の首目掛けて振り下ろした。すると信じられない事にムチが突然燃え出したのだ。
なにあれ...うそでしょ...
私は勢い良く自分の腕をムチの前に突き出し、ミアさんの首への直撃を防いだ。
「なっっ。」
突き出される私の腕を見たフローリーさんはその不敵な笑みを崩し、ムチの勢いを少し弱めたが、それでも止まらなかった。
次の瞬間私の腕に強烈な痛みと燃えるような熱さが襲いかかった。
「あ゛ぁぁぁああぁぁあぁぁ!!!!」
自分の腕の感覚が全くしなかった。
うぅ...意識が飛びそう...まだ追撃があるかもしれないのに...
私は意識が飛びそうになり、その場で倒れ込んでしまった。私の視界に涙目のミアさんの姿が入り、私は少し安心した。
よかった...とりあえずは無事みたい...
【耐性スキル〖物理耐性:Lv1〗を獲得しました。】
【耐性スキル〖苦痛耐性:Lv1〗を獲得しました。】
謎の声は立て続けに私の頭の中で響いた。
それと同時に、少し痛みが和らいだような気がする。
「レーナ様、何故邪魔をしたのです!」
フローリーの不敵な笑みはすっかりとただの怒りへと変わっていた。彼女は片手で持っていたムチを強く握りしめ、少し歯ぎしりしていたのだ。
「待ってと...言ったじゃないですか...」
私はゆっくりと立ち上がりながらそう口にした。
うぅ...少し和らいだからってまだ全然痛い。
私はゆっくりとその腕へと目を向けた。
そこには真っ赤に染まった大理石の床に加え、かなり深く傷ついた自分の腕があった。
うわぁ...この傷、一生残るやつだわ。
「私のパーティー..ですので...血を見たくなかったんですよ。」
この理由だと、本末転倒な気がするが、そう答えるしかなかった。帝国貴族相手に同じ人間を傷つけるものではないとか言っても、絶対に伝わらないと思ったからである。
フローリーさんはその場で目線を下ろして黙り込んでいた。
「平民!!貴様はクビだ!もう二度と私の前にその顔を見せるな!!」
フローリーは眉間にしわを寄せ、ミアさんに怒鳴りつけたあとパーティー会場から出ていった。
ミアさんにとってクビというのはどれ程重いものなのかはわからないけど、私は少し安心した。自分勝手な話ではあるが、この世界に来てから初めて同じ種族の人にであったのだ。あんな『殺人姫』の横で過ごしてほしくなかった。
私は少し安心すると、ギリギリ保っていた意識が薄れていき、私はその場で倒れてしまった。
「レーナ!、レーナしっかりしろ!!」
横からお父様の声がする...
お父様...だいじょうぶだよ...
ほとんど意識がなかった私の声が届くはずもなく、私は完全に意識を失ってしまった。
うぅ...
ここ、どこだ、
私は段々と意識を取り戻していき、ゆっくりとその目を開いていった。すると見慣れた巨大なシャンデリアが天井にぶら下がってるのが見えた。
「はっ、ミアさん!」
私は勢い良くベッドから飛び上がろうとすると、右腕から物凄い激痛が走り、その場でうずくまってしまった。
「レーナ様!目が覚めたのですね!!!」
声がした方へと目を向けると、そこには涙目のレイシアさんが座っていた。彼女は私が起きた事を確認すると座っていた椅子から飛び上がり、私に顔を近づけてきた。
「待っていてください、アルス様を呼んできます!!!」
彼女はそう言うと、駆け足で部屋を出ていった。
あれからどうなったんだろう...
ミアさんは大丈夫だったかな。
それにフローリーさん、どうなったんだろう。
事故とは言え、剣聖の一人娘をその誕生日パーティーで傷つけたのだ、ただで済んだとは思えない。
一応自分のステータス確認しとくか。
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名前:『レーナ・ヴォン・アルフォード』
種族:ゼタ・ヒューム
状態:疲労(大)
年齢:3
ランク:F-
LV:1/10
HP:5/8(自動回復率-50%)
MP:4/4(自動回復率-50%)
攻撃力:7(-50%)
防御力:6(+10)
魔法力:3
速度:3(-50%)
装備:〖公爵家のドレス:価値C-〗
ーースキル:
〖竜神:Lv1〗
通常スキル:
〖カタルシス語:Lv5〗
耐性スキル:
〖恐怖耐性:Lv3〗〖衰弱耐性:Lv1〗〖貴族耐性:Lv1〗〖物理耐性:Lv1〗〖苦痛耐性:Lv1〗
特性スキル:
〖鑑定:Lv3〗〖ステータス閲覧:Lv2〗〖念話:Lv1〗
称号スキル:
〖神の卵:Lv--〗〖剣聖の娘:Lv--〗〖吞気なお嬢様:Lv2〗
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疲労(大)って、絶対大丈夫じゃないよね、それに腕どうなったんだろう。私は痛みの絶えない右腕へと目を向けると、そこには包帯のようなものでグルグルまきになってた自分の腕があった。
これ、やっぱり一生残るのかな。まぁこれでミアさんが助かったと思えば安いものだ!
「レーナ!!!」
そうこうしていると、お父様が私の部屋に全力疾走で入ってくるのが見えた。
「レーナ、もう無茶しないでくれ。」
お父様は涙を流しながら私を優しく包み込んでくれた。
「ごめん..なさい...お父様...」
それはとても温かく、今まで自分で抱えていた恐怖や優遇が途端に湧き出て来てしまった。その全ての負の感情を受け止めてもらえた気がして、私は自然と涙を流した。
【修正報告】
〖2019/03/10〗誤字や文章の編集に加え、タイトルの変更も行いました。