帝国貴族
図書館の一件から数日。私は心身共に疲れ果てていた。
まさか自分の誕生日パーティーのためにここまでしなければならなかったなんて...
私はこの数日間、他の貴族達も出席するという私のお披露目会の為の色々な準備や、お嬢様としての振る舞いなどを叩き込まれていた。
「レーナ様、聞いてますか?もうパーティーまで時間がないのですよ。」
レイシアさんは先日、私の部屋に置かれた机の横に立ち、私に机の前に座るようにと示していた。
うわぁ...また始まるのか...
「ふはぁぁい...」
私は少し欠伸をしながら答え、せっせと机へと足を運んだ。
「いいですかレーナ様、帝国貴族というのは誇りを高く持つものなんです!」
この言葉を最初に聞いた時は「めんどくさそうな身分だなぁ」と、そのくらいの印象しかなかった。
だが、話を聞いていくうちに、この「誇りを高く持つ」の意味が少し複雑である事に気づいてしまった。
この国『アーデルジア帝国』は貴族絶対な国らしい、平民は使い回しのゴミ以下の存在でしかないらしく、貴族の機嫌を損ねたら打ち首は免れないらしい。
って怖っ。
機嫌損ねただけで打ち首とか意味わかんないし、よく国として成り立ってるよ。
それよりお父様がそんな怖い人じゃなくて良かった...目の前で首はねるのとか見たらたまったもんじゃない。
「レーナ様はその貴族階級の最高位である公爵の、それも剣聖様の一人娘なんですから、もう少し帝国貴族としての誇りを...」
レイシアさんは私に人の首をはねろと、そう言っているのか!
そんな事、恐ろしくてできるわけないじゃない!!
私は無言のまま涙目でレイシアさんを睨み付けてると、彼女少し溜息を吐き、「仕方ないですね。」と、いつもの笑顔を向けながら口にした。
「それはともかく、明日のパーティーのことですが...」
明日のパーティー!?
「ちょっと待って、レイシアさん、私の誕生日パーティーって明日だっけ...」
私は再びレイシアさんの方へと向き、少し震えた声でそう問いかけた。
「レーナ様はご自分のお誕生日も覚えてらっしゃらないのですか?」
レイシアさんは呆れたように私を見つめ直してそう答えてくれた。
まじかぁ。平気で人の首をはねるような人達に祝われる誕生日が明日...
こんなんだったら祝われない方が何倍もましだ。でも...祝わないで欲しいとでもいった日には...
機嫌損ねないように努力しないと...私も何されるかわからない。
「まぁいいです。明日のパーティーは帝都の貴族街から、剣聖様のお知り合いを呼ぶことになっています。」
「帝都の貴族街って...」
嫌な予感がする。
そんな息を吸うように首をはねる、超ドSSS+++な人達の巣窟なんか想像しただけで寒気がするのに...
「何言ってるんですかレーナ様、私たちが今過ごしている場所ですよ。帝都の貴族街に位置する、アルフォード家の屋敷です。」
ビンゴ。
嫌、ビンゴして欲しくなかったわ。
まさかこんな所で過ごしてたなんて...
うぅぅ...目まいが...
でもまぁお父様の知り合いならまぁ大丈夫だよね!きっと...
そうだと思う...
翌日の朝。
「レーナ様、お着替えの時間ですよ、あと3時間もすれば他の貴族様たちがお見えになりますし、急いでください。」
私を深い眠りから引きずり起こしたのはレイシアさんのそんな一言だった。今日は私の誕生日パーティー...いや、正確にはお披露目会と言った方が正しいかもしれない。首はね貴族に祝われる、地獄のお披露目会...
うぅ。この日がついに来てしまったか...
私がベッドから出るのに苦労していると、レイシアさんは強引に私をベッドから引きずり出した。
「レーナ様、ドレスをお持ちしましたので、そこに立ってください。」
レイシアさんは片手に真っ白なドレスを持ち、私に見せてくれた。
そのドレスはレースやフリル、綺麗な刺繡が施されており、スカートの部分がフワッとした、ウェディングドレスにも匹敵するような真っ白なドレスだった。
うぅぅ...
たしかにかわいいドレスだけど、あのパーティーに行くために着るのだと思うと...
その後、私はその純白のドレスを着て、お父様に見せびらかしにいき、スピーチの練習をした。
そうこうしているうちに直ぐに3時間が経過し、私はパーティー会場へと足を運び始めた。
胃が...胃がやばい...
何だかやばい吐き気が襲ってくる。
私は大きな木製のドアの前で立ち止まり、時間がたつのをまった。
「お嬢様、私はここで待っていますので、このドアを開けたらステージの中央に立ち、練習してきたスピーチを始めるんですよ。」
私をなだめるように、レイシアさんがいつもの落ち着いた声で指示を出してくれた。
うん...ありがとう、レイシアさん...
緊張のあまり声も出せなかった私は心の中で彼女に感謝の言葉を送った。
ん?声も出せないってスピーチとか無理なんじゃないの!?
私はドアの前で発声練習をしようと考えてたらドアの向こうから沢山の拍手が聞こえてきた。
これ、行かなきゃダメなのかな...
私はレイシアさんの方へ目を向けると、彼女は静かに頷いた。
あーー!もう!どうとでもなってしまえ!!!
私は覚悟を決め、使用人たちの手で開かれるドアへと歩いて行った。
その先には何人もの高そうなスーツを着た男性や、私と似たようなドレスを着てる女性が、あちこちで拍手していた。
ここは私がスピーチの練習の為に何度も足を運んだ場所。部屋というより大図書館に遅れを取らない位の講堂だった。私はそのまま講堂の奥にあったステージへと目を向け、中央に位置する通路を歩いて行った。
私が心を無にしていると、すでにステージに立っていたお父様が目に入る。
お父様は私に顔を向け、微笑んでくれた。
大丈夫、こういうのは慣れだよ、しかもここにいる人達がみんなドS殺人鬼だって決まったわけじゃないし。
私は自分を落ち着かせる為、ここにいる人達は帝国貴族でも何でもないと自分に言い聞かせた。そう、彼らは野菜である。しゃべることもできないただの野菜。
そんな野菜が開けてくれた通路を歩いていくと、一人の少女が目に入った。
その少女は金色の長い髪を女の子らしいフワッとしたように整え、赤く、それでいて美しいその瞳を私に向けていた。彼女は私と似たようなスカーレットのドレスで身を包んでおり、腕を組みながら私の視線に気付くと微笑んでくれた。
ちょっとだけステータスチェックしてみるか、別にスピーチの後でもいいけど、同い年位のステータスを確認しておきたいし、後でまた会えるかわからないしね。
私は歩きながらその少女へと意識を集中させた。
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名前:『フローリー・ヴォン・フェレッチェリー』
種族:ヒューム
状態:通常
年齢:6
LV:7/99
HP:12/12
MP:18/18
攻撃力:14(+10)
防御力:7(+10)
魔法力:7
速度:6
装備:〖伯爵家のドレス:価値C〗〖伯爵家のムチ:価値C+〗
通常スキル:
〖愛なきムチ:Lv3〗〖首切り:Lv2〗〖バーン:Lv1〗
耐性スキル:
特性スキル:
称号スキル:
〖伯爵家の次女:LV--〗〖殺人姫:Lv2〗〖笑うムチ:Lv--〗
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私は思わず足を止めてしまった。
なにこれ、ここにいる人達って皆こんな感じなの?しかもなに称号スキル〖笑うムチ〗って、意味わかんないよ!!
「どうしたレーナ?」
ステージに立っていたお父様が私が声をかけてくれた。私はお父様に笑顔を向け、再びステージへと歩き始めた。
そう言えばあの子、〖伯爵家のムチ:価値C+〗装備してたけど、どこに隠し持ってんのやら...
だいたい3歳の子供の誕生日パーティーにムチが必要だとは思わないけどね...
【修正報告】
〖2019/03/10〗誤字や文章の編集に加え、タイトルの変更も行いました。