剣聖と姫
「〖瞬暗〗!!!」
〖瞬暗〗は確か、周りを真っ暗にするスキルだ。私の持っている〖常世闇〗の範囲攻撃バージョンといったところだろうか。
でも、私には効かない。〖闇無効:Lv--〗を持った私に、闇属性スキルは絶対に効かない。私のそばにいるお父様、クルムさんやヒューリにも、効かない。
それはお母様も分かっているはずだ。なのに、なんでそんな無断な事に、MPを使ったんだ?
「そして、〖狐火〗!!」
お母様の周りに小さな球体が幾つも生成され、こちらに迫ってきた。ただスピードが遅すぎる。これなら進化前のヒュームだって簡単に対処で来た。何故、立て続けに、こんな無意味な攻撃を...?
次の瞬間。〖狐火〗が一気に空中で燃え上がり、私達を包み込んでいった。
こんな効果。〖狐火〗なんかにはないはずだ。しかも〖狐火〗自体の速度があんなに遅かったのに、炎の広がるスピードが早すぎる。
「〖瞬暗〗はね、ただ辺りを暗くするだけじゃないの...」
ゆっくりと口角を上げるお母様が視界に入る。
どういう意味だ。〖瞬暗〗の効果は辺りを暗くするもの。それで合っているはずだ。それとも、それだけではないのか?もしかして、炎を更に強くする効果でも...
「〖マナブレイド〗!!」
絶望の淵に立たされていた私に、お父様の声が届く。
お父様は七色に輝く聖剣を下から思いっきり振り上げ、鋭くも力強い、斬撃を生み出した。
その斬撃は空を斬り炎をも斬った。
そんな斬撃は止まることを知らず、そのままお母様に迫る。
「〖魔眼〗...」
お母様は凄まじい勢いで迫る斬撃に狼狽える事なく、そう、小さく呟いた。
「消えた...だと...」
クルムさんの驚きの声が漏れる。
無理もない。剣聖であるお父様の斬撃を、お母様が文字通り消したのだから。一歩も動かずに。
〖魔眼〗なんてスキル、数日前は持っていなかった。つまり、それは涅色の龍から奪ったもの。もしくは、〖アスラ〗のレベルが上がって獲得したものだ。
「ロス!サポートお願い。〖断罪之光〗!!」
私は一歩前進し、最大の攻撃スキルを放つ。
天から光の柱が現れ、それは一気にお母様を包み込んでいった。
「グルゥゥ。」
寂しそうな、ロスの鳴き声。
これは拗ねている時の鳴き声だ。何か気に食わない事でもあったのだろうか?
「ロス?どうしたの?今は戦闘に集中して欲しいんだけど。」
「グルゥゥ...」
翻訳すると、俺の出番ない...だそうだ。
何を言ってるんだロスは、戦闘はこれからじゃないか。確かに〖断罪之光〗は強力なスキルだけど、お母様を一発KOさせるには攻撃力が圧倒的に足りない。
「グルゥゥ...」
そういう意味じゃない?
私は目を細め、お母様が立っていたところに目線を向ける。そして、ようやく理解した。ロスが言っていた意味を。私達の出番は、もうないと言う意味を。
「〖オーバーブースト〗〖アタックフォース〗〖オーバーアクセル〗〖剣気解放〗〖剣身一体〗!!!」
次々とスキルを唱えながら地を蹴るお父様。
全ての魔力、攻撃力補正を終えたお父様のステータスは...
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名前:『アルス・ヴォン・アルフォード』
種族:ヒューム
状態:通常
年齢:25
LV:87/99
HP:812/812
MP:749/787
攻撃力:648(+150%)(+40)(+150)
防御力:621(+80)
魔法力:638(+100%)(+150)
速度:661(+60)
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1000を超えていた。
「なに...そのステータス!?」
さすがのお母様も驚きを隠せないようだ。
ただ、お母様の表情には、まだ笑顔が残っていた。
余裕の笑みが、まだ崩れていなかった。
お父様の1000を超えるステータスをみて、まだ、余裕を持て余していた。
「〖龍化〗...」
お母様は呟き、迫るお父様の剣を難無く躱す。
「なっ...」
その瞬間、天から突如として現れた雷の柱は、私の〖断罪之光〗よりも遥かに濃い輝きを放ち、お母様を貫いた。
しかし、お母様の笑みは継続していた。
まるで、勝利を確信したかのように...
「ガァァァァァ!!!!」
お母様は咆哮を上げる。竜のように...いや、龍のように...
「なんだ!?」
お父様は驚愕しながらも、静かな動きで私達の元へ足を運ぶ。
「もしかして、あれ...」
あんなエフェクトを見せるスキルなんて、一つしかない。私が封印していたスキルの一つ。
「あぁぁァァあぁぁぁ!!」
膨張するお母様。
その姿はとても醜く、人間と呼べるものではなかった。私はそんなお母様の姿を目の当たりにして、奥歯を嚙みしめた。私の瞳に映る、目の前のお母様は、私の姿だ。これが、私達、ゼタ・ヒュームの姿だ。
「あれは、龍種か...」
クルムさんは口をポカーンと開け、空を見上げていた。私も彼に倣い空を見上げる。
そんな私の視界に映ったのは、
「涅色の龍...」




