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お母様と念話

「私とクルムは2階の確認をしてくる。レーナとヒューリは1階を頼む。」


公爵家の扉の前。

お父様は作戦の再確認と同時に、勢い良くドアを開けた。


この作戦、一見したことろ、大人と子供に分かれているだけに見えるかもしれないが、そうではない。いや、大人と子供に分かれてはいるのだが、目的がきちんとあるのだ。

それは、戦闘慣れしている人とそうでない人。

ただ単に、共に戦った回数が多く、チームワークができそうな組み合わせでもあるのだが、それ以上に、お父様とクルムさんが渡ってきた戦場と言うのは、私とヒューリのを超越している。

なので、お母様の部屋があり、危険の多い2階はお父様とクルムさん。そして、比較的部屋の数も少ない一階が私とヒューリ。


「旦那様。お早いご帰宅ですね。どうしたのですか!?その格好!!それに、レーナ様!?」


勢い良く開けられたドアの先。

そこには、一人のメイドさんがほうきを持ち、私達を出迎えてくれた。


「レイシアさん?無事だったの?」


「それは私のセリフですよ!!」


ポツリと言葉を漏らす私。それを合図に、レイシアさんは勢い良く私に抱きついてきた。何粒もの涙を漏らしながら、何度も何度も私の名前を口にし、抱きしめてくるレイシアさん。


「それで、レイシア。シルフィーは、どうした。」


レイシアさんが無事なのは良かった。でも、他の人達はどうなんだ?雇っているメイドさんはレイシアさんだけじゃない。


「レーナ様が姿を消してから、屋敷を飛び出してしまって...」


なるほど、そういう事か。

私の〖竜神〗の能力を欲していたけど、それは後回しでいいと判断した。お母様が手を出した、涅色くりいろの龍...私の〖竜神〗以上の価値があるって事なのか...


「どこに行ったか、分かるか?」


お父様は少し険しい表情を見せ、レイシアさんを問い詰めるように言葉を続けた。


「いや...そこまでは分からないです。でも...」


「でも?」


「これは聞いた話なんですが、帝都のフェレッチェリー家の屋敷に、出入りしていた...」


「それは本当か!!!」


レイシアさんが最後まで言い終える前に、お父様は身を乗り出し、目を丸くする。


「聞いた話なので、確信はありません...」


フェレッチェリー家と言うのは、ヘップバーンの町にCランクの邪竜を放った疑いのある伯爵家だ。しかも、その目的は私達アルフォード家の崩壊...


「お父様。これってもしかして...」


お母様の目的は私の〖竜神〗の能力を奪うこと。即ち、私を殺める事だ。お父様をどうするつもりかは分からないが、最低でも、アルフォード家次期当主である私を消すという目的は、フェレッチェリー家と一致している。

お母様とフェレッチェリー家が共闘しても、おかしくないと言う事だ。


「あぁ。これは、フェレッチェリー家に挨拶にいく必要があるな。」


お父様はレイシアさんに近づけていた顔を遠ざけ、隠し持っていた剣を取り出す。


「すみません。直ぐにお着替えを...!」


「大丈夫だ。このまま行く。」


本来、他の貴族に挨拶に行くには、それなりの服装をしていく必要がある。しかし、今回はただの挨拶ではない。

お父様の言う通り、着替えの必要なんて、ないだろう。

どうせ、汚れるのだから。


ーー敵!!来た!!!


レイシアさんに背を向け、屋敷を後にしようとした時、私の頭の中に、念話が届いた。

こんな時に念話してくる人なんて、ロスしかいない。


ーーロス、大丈夫?対処できそう?


ーー女の人、レーナ様に似た、白銀の髪...この人、多分...


白銀の髪の持ち主なんて、たとえ異世界でもそんなに存在するものではない。だとしたら、ロスの言っていた『敵』と言うのは...


「お父様!!ロスからの念話で!!お母様が!!」


私は真っ先にお父様に報告を入れる。指揮を執るのは、戦闘慣れしているお父様だ。無暗に一人で動いても意味なんてない。


ーーあれ?もしかしてレーナ?久しぶり。


この声...


頭の中で響き渡った声はとても可憐で、女性の象徴ともいえるような透き通った声。


「レーナ!シルフィーが出たのか!!?」


私の肩を掴み、顔を近づけてくるお父様。


ーーもしかして、もう屋敷に着いたの?


「今、念話で繋がっています...」


ーーあぁ、そこにアルスもいるのね...では、アルスにも来てもらいましょうか。


「シルフィーはなんて言っているんだ!」


額の汗、そしておさまらない震え。お父様はそんな悲鳴を上げながら、私に近寄ってきた。


ーー涅色くりいろの龍の祠...待ってるわよ。


涅色くりいろの龍の祠...で待っているそうです。」


蒼白として顔を見せるお父様。


私も、恐らくは似たような表情をしているのだろう。その証拠に、私は指一本動かせないでいる。


お母様の言う涅色くりいろの龍と言うのが何なのかは分からない。でも、お母様が私達を誘っていると言う事実が、何よりも恐ろしかった。


お母様のステータスは普通のBランクモンスターと同じものだ。それに比べて私のステータスはBランク超上位の化け物レベル、お父様はそれ以上だ。

それなのに、お母様は私達を招いた。

お母様は〖ステータス閲覧〗持ちだ。お父様の化け物ステータスを把握しきれていなかったなんてあり得ない。

つまりお母様は、化け物ステータスを有しているお父様に対抗できる何かを持ち合わせていると言う事だ。


「まさか、本当に龍種に手を出した...のか...」


何か呟きながらも、ゆっくりと立ち上がるお父様。


「レーナ。悪いが、もう一度だけ、あのドラゴンに乗らせてくれ。」

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