帝都潜入
人々で賑わう帝都の中央区。
そんな所の路地裏で、4人の男女は密かに動いていた。
「お父様。そんな格好で本当に戦えるんですか?」
そんな格好とは、私と並んで歩いている、お父様の服装の事である。
つまらない灰色をベースとしたボロボロの服で、防御力なんて期待出来るものではなかった。さすがに聖剣リムドブルムは隠し持っているみたいだが、それにしても戦闘に適した服装だとは思えない。
「それはお互い様だろう。」
お父様は『不本意だ』と言わんばかりの顔を私に見せる。
確かに、帝都の外で着ていた服装のまま町中に入っていたら、大騒ぎになっていただろう。お父様は剣聖のバッジが飾られている軍服だったし、私は少し汚れた元真っ白ワンピース。それに加えて町中ではかなり目立つ白銀の髪色。
ヒューリとクルムさんはそのままでも問題なかったが、私とお父様が変装しなくてはならなかったのは明らかだった。
「レーナも、それ戦いづらいくない?」
ヒューリは少し首を傾げながら、そんな素朴な疑問をぶつけてきた。
「私は大丈夫だよ、大森林でもスカートだったでしょ。」
ヒューリが心配している理由は何と無く分かる。恐らくは、私のロングスカートの事だろう。確かに、ここまで長いスカートは履いた事がない。
ただでさえ動きづらいスカート類に、着慣れない長さのものだ。
本音を言うと、私も全力を出せるのか、少し不安な所ではある。
「本当に大丈夫なんですか?男物の服の方が良かった...ですか?」
慣れていないのか、覚束ない敬語で語られたクルムさんの提案は、かなりの名案だった。
ただ...
「それ、もっと早く言って欲しかったです...」
「はっはっ...すまない。その年の女の子だと、普通に女性物の方が良いのではないかと思いまして...」
もう直ぐ貴族街の門にたどり着く。そんな時に、今から帝都の門まで戻って、男物の服に着替えるなんて出来るはずがない。
ただ、否定はしない。女性物の服の方が、どちらかと言うと良かったと言う事を。
「そろそろだぞ...」
お父様の重く、切なさの乗った言葉が3人に届く。
目の前には大きな鉄の門。帝都全体を守っていた樹の門とは比べ物にならないくらいの上質な門だ。素材が違うのだから、比べるまでもないのだが...
「門番とは顔見知りだしな、今回も私が行ってくる。」
そう言い残して、お父様は鉄門へと走って行った。
今の私達の服装を考えたら、軍服のままのクルムさんが行った方が一番良いと思うのだが、門番に友人でもいるのだろうか?
数分後。
門の受付的な所にいたお父様から念話が届いた。
「もう大丈夫見たい。」
念話の内容は『直ぐに来て』だ。これはお父様からのSOSなのか、ただ、門を通れそうだから早く来いのサインなのかわからないが、早目に行った方がだろう。
***
受付カウンター的なところの手前にて。
「剣聖様!!私の服をどうぞ!!」
「いやいや私の服を!!」
ボロボロの奴隷並の服に身を包んだお父様を見て、何故か門番の兵士さん達は自身の服を脱ぎ始めていた。
「お父様...これはいったい...」
会話の内容から察するに、剣聖であるお父様に粗末な服を着させたくないのだろう。
確かに、兵士さん達の制服の方が、戦闘には適している。しかし...
「気持ちは嬉しいが、それは受け取れない...君たちの仕事に支障がでるだろ。」
お父様の言う通りだ。最近寒くなってきてるし、この人達も風邪をひいてしまう。それに、剣聖が兵士さん達の服をもぎ取った!なんて知れ渡ったら、大変な事になる。
「いえいえ!剣聖様、どうか私の服を!!」
「それで、お父様...門は通れるのですか?」
お父様が断っているのに、強く推してくる兵士さん。
私はそんな兵士さんの熱気にやられ、少し立ち眩みしながらお父様に『逃げ道の確保は出来ているか』聞いてみた。
「すまないそれはまだかかりそうだ...」
成程...お父様が念話で言っていた『直ぐに来て』は、SOSだったのか...
数分後。
「剣聖様。申請が受理させました。通っても問題ありません。」
終わりの見えない譲り合いに若干の苛立ちを覚えていると、奥の部屋から一人の兵士さんがやって来た。
「そうか。行くぞ皆。」
お父様はそんな兵士さんを確認すると、私の手をとり、逃げるようにしてその場から離れようとした。
「剣聖様!!私の服を!!」
そんなお父様を半裸の男性は追いかける。
「レーナ。走るぞ。」
真剣な眼差しで語られたお父様の言葉にも、少しだけ苛立ちの色が乗っていた気がした。私はそんなお父様の言葉に無言のまま頷き、皆と一緒に貴族街へと走って行った。
***
視界いっぱいに広がる庭木。そして、その奥に見える公爵家の屋敷。
「レーナ。もしかして、ここ?アルフォードの屋敷って?」
ヒューリは口をポカーンと開けたまま、私にそんな疑問をぶつけてきた。
「そう。ここで全部...終わらせる...」
全員その覚悟はできている。勿論お父様もだ。
ロスに乗る前は、少し不安にさせる素振りを見せていたが、帝都に来てから、そんな素振りは一切見せなくなった。
クルムさんも、私の発言を聞いて馬鹿笑いしていたのが嘘みたいに、凄く真剣な眼差しで屋敷を見つめている。
それだけじゃない。
この人、既に幾つかのスキルを発動している。
「行くぞ。」
お父様の一言を合図に、私達4人は歩き出した。アルフォード公爵家へ..




