進化の可能性
「それじゃぁ、作戦会議を始めます。」
銀朱に輝く大空の下。祠の瓦礫が散乱する、とある大地にて。
私は少し重くなっていた口を徐に開く。
「それで...進化できそう?」
私の言葉に続くように重く、詰まった言葉を放ったヒューリは身を乗り出し、輝いた瞳を見せつけてきた。
「進化はまだだけど、明日にでもできそう。ロスもかなりレベルが上がっているし、後二日で進化まで辿り着けるかもしれない。」
「グラァァ!!」
進化できるのがそんなに嬉しいのだろうか?ロスはその大口を天に向け、咆哮に近しい何かを放った。
「それで...本題だけど...」
そう、ここからが本題だ。ヒューリの進化が近い事と、ロスも進化できるかもしれない..っていうのは、報告に過ぎない。
これからが作戦会議だ。
「レーナ!ちょっと質問いい?」
片手を上げ、いきなり質問をぶつけてきたのはヒューリ。
私はそんな彼女に「どうぞ」とだけ答え、彼女の質問とやらを待った。
「レーナのお母様の事なんだけど、その..魔王スキル?みたいなの持っているなら、私とロスみたいな仲間がいたりするの?」
お母様の仲間か...考えた事もなかったな..
確かに、ロスみたいに『わが身に帰れ』的なやつで隠していた可能性だってある。
「それは分からない...けど、お母様の仲間がいたとして、遠距離攻撃や飛行能力を持った敵ではないと思う。」
理由は簡単。お母様は私が逃げる際に仲間を出さなかった。そんな切り札が実際に存在したのだとしたら、屋敷から逃げる私に追撃を与える事くらいできたはずだ。お母様が私を追いかけなかったのは、自分が攻撃した所を目撃される可能性があったから。その攻撃をお母様とは無関係な魔物から放つ事ができるのなら、お母様はそうしたはず...
「それに、お母様はBランク。自分より強い者は従えないはずだから、仲間はBランク以下だと思う。」
これは間違いないだろう。焔漿龍みたいなBランク超上位のウルトラ化け物レベルの仲間ではないはずだ。ただ、それはお母様が進化していなかったらの話だが...
お母様はやる事があると言っていた、もしそれが...彼女の進化に繋がるものだとしたら...
「Bランク...」
ヒューリは苦笑いしながらその視線を降ろしてしまった。
彼女の気持ちは分かる。このままじゃ、ロスとヒューリは足手纏いにしかならない。Bランクであるお母様からしてみたら、Cランク下位なんて普通の人間と対して変わらないのだから。
「それで、明日のレベリングに関してなんだけど、明日はヒューリのレベリングを集中的に行おうと思う。」
早く進化させる為、と言う理由もあるが、進化した後も早目に中レベル体まで上げたい。
その後、私達は虎の丸焼きを夕食にし、早目に寝る事にした。明日には本格的なレベリングが始まるのだから...
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ーーレベリング二日目
「ヒューリ、ロス、準備は出来てる?」
「勿論!!」
「グラァァ!!」
最後に放たれたロスの鳴き声を合図に、私達は森の中へと走っていく。体力温存の為には普通に歩いた方がいいのだが、始まりが重要だし、こういうのは雰囲気が出た方が良い。
二日後だ。
残り二日で私達はこの森を出る。
それまでにやるべき事は決まっている。
「レーナ!敵来たよ!」
「グルルゥゥゥ...」
祠の更に奥に進んだデルラジア大森林の奥地。そこには3匹の大蛇が待ち構えていた。紫色の竜の様な鱗を持ち合わせており、小さな翼の様な物も背からはやしている。
この大蛇は昨日会ったのとは大きさも邪悪さも違う。ロスも少し警戒しているみたいだし。
私は異様に悪寒を感じさせる大蛇に違和感を覚えながらも、彼らに意識を集中させ、〖ステータス閲覧〗を発動させた。
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種族:紫害蛇
状態:通常
ランク:C-
LV:54/58
HP:279/279
MP:263/263
攻撃力:181
防御力:189
魔法力:168
速度:185
通常スキル:
〖ハイスラッシュ:Lv6〗〖かぎ爪:Lv6〗〖突撃:Lv6〗〖嚙みつく:Lv5〗〖毒牙:Lv5〗〖ポイゾンタッチ:Lv6〗〖闇霧:Lv6〗〖シャドウスピード:Lv6〗〖グラビティ:Lv6〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv6〗〖苦痛耐性:Lv5〗〖落下耐性:Lv4〗〖水属性耐性:Lv6〗〖風属性耐性:Lv6〗〖火属性耐性:Lv6〗〖雷属性耐性:Lv6〗〖毒無効:Lv--〗
特性スキル:
〖飛行:Lv4〗〖紫害蛇の鱗:Lv4〗
称号スキル:
〖デルラジア大森林の魔物:Lv--〗
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なるほど...〖グラビティ〗持ちか...
ロスがどうやってそれを察したのかは分からないけど、怯えていた理由が分かった。
それに普通にステータスもそれなりに高いし、ヒューリよりレベルが上だ...
私なら一捻りで倒せると思うけど...彼女達に戦わせるのには危険過ぎるな。ここは私一人で...
「グラァァ!!」
「いくよ!ロスさん!!」
私の考えとは裏腹に、ヒューリとロスは〖ステータス閲覧〗の結果を聞く前に戦闘開始してしまった。
いつもなら、私の〖ステータス閲覧〗結果を聞いてから動き出すのに...何で今回に限って...
「レーナ!ここは任せて!!大丈夫だから!!」
ヒューリは振り向き、満面の笑みを見せながら片手を振ってきた。
そんな曇りない笑顔を見せられ、私は説得する気を無くしてしまった。
本来ならこんな危険な戦闘は避けるべきだ。でも、今回は私がサポートに回ろう...そんなにサポートスキル持っていないが、ただじっとしているだけと言う訳にもいくまい。
「〖常世闇〗!!」
〖常世闇〗は一定期間、相手の視界を奪うスキルだ。具体的には暗闇を見せるスキルで、相手の〖闇属性耐性〗によって効果や持続時間が変化する。
昨日色々実験してみたり、鑑定さんで調べたりして分かったかなりのチートスキルだ。戦闘中に相手の視界を奪えるのはかなりでかい。ただ、お母様戦には使えないだろう。余り覚えてはいないが、闇属性系のスキルを多く持っていたはず。だとしたら、それに比例して闇属性耐性もかなり高いだろう...
「〖双鉄槍〗!!からの〖クロススラッシュ〗!!」
一瞬にして生成された銀の槍を大きく振りかぶり、そのまま紫害蛇に向かって勢い良く振り下げるヒューリ。
完全に視界を奪われていた紫害蛇に、そんなヒューリの攻撃を避けられるはずもなく、あっさり攻撃を食らってしまった。
「キュゥゥゥァァァァ!!」
「グラァァ!!」
紫害蛇のおぞましい雄叫びと同時にロスも咆哮を上げる。
視線を天に向け、翼をばたつかせているロス。これは何かのスキルのモーションなのだろうか?
そんな私の疑問に答えるかのように、心地いい風と冷たい何かが私の肌に触れた。
これはロスのスキル〖降雪〗だろう。
私といる時は余り使っていなかったスキルだけど...ヒューリとの相性がいいのだろうか?正直少し嫉妬してしまう...
「からの〖ダブルスラスト〗!!」
ヒューリは更に距離を詰め、勢い良くその槍を一匹の紫害蛇に突き刺した。
「更に〖ブースト〗!!からの〖魔力拳〗!!」
ヒューリは両槍を紫害蛇の腹に突き刺したまま自身にバフをかけ、その拳を振るった。
「キュゥゥゥ...」
かなり弱々しくなった紫害蛇の叫び声と同時に害蛇の腹がへこむ。
すると次の瞬間、強力な圧力が体を地面に押しつけようとし、ヒューリとロスはそんな圧力にあっけなく屈服してしまった。
これは言うまでもなく紫害蛇のスキル〖グラビティ〗だ。ただ、紫害蛇はまだ視界が戻っていないはず...なのに、〖グラビティ〗を使った。敵が焦っている証拠だ。
でも、どうやってこの状況を打破すればいい...私はなら問題なく〖断罪之光〗で終わらせる事ができる。ただ、それはヒューリの意思に反する...
でも、このままだとヒューリが...
「〖ハイスピード〗!!!〖ブースト〗!!」
私の不安を消し去る様に放たれたヒューリの叫びは私の迷いを一瞬で消し去り、私は今まで通り、サポート役としての役目を全うする事にした。
「〖天候支配〗!!」
ゆっくりと立ち上がるヒューリを確認した私は、彼女が集中的に攻撃していた紫害蛇の周囲の風を一転に集中させ、暴れ回る害蛇の動きを封じた。これで大丈夫なはずだ。私が愛用していたスキル。その火力を最大限に引き出す事ができる。
「〖電熱〗!!!」
ヒューリはほぼ硬直していた紫害蛇の腹に触れ、その鱗を溶かし、血肉を粉砕した。
【経験値12を獲得ましました。】
【スキル〖竜神:Lv2〗により、更に経験値12を獲得ました。】
その通知を最後に紫害蛇は力なく地面に倒れた。
昨日行った実験の中で経験値の配分に関するものも調べておいた。獲得する経験値量は相手に与えたダメージに比例する。今回私はほとんど相手でダメージを負わせていない。だから経験値が少なかったのだろう。
それはいいとして、残りの紫害蛇二匹...そろそろ〖常世闇〗が切れる...




